レビューの論点
慢性B型肝炎患者に対する鍼治療と無介入または偽鍼治療(本物の鍼治療ではない)とを比較し、有益性と有害性を評価する。
背景
慢性B型肝炎ウイルス感染症は、慢性B型肝炎患者やその家族にとって、経済的にも精神的にも生活に多大な影響がある。鍼治療は、慢性B型肝炎患者の不快感を和らげ、免疫機能を改善するとされているため、慢性B型肝炎患者の治療に用いられている。しかし、厳格な方法によるシステマティックレビューで鍼治療の有益性と有害性は立証されていない。
検索日
本レビューには、2019年3月1日までに報告された試験が含まれている。
研究の特性
参加者555例を含む8件のランダム化臨床試験を対象とした。全試験で鍼治療と無介入とを比較した。7件の試験は、慢性B型肝炎の参加者を対象とした。
1件の試験は、慢性B型肝炎の人で結核と腹水のある参加者を対象とした。これらの試験はさまざまな種類の鍼介入(手で刺入する、ツボに薬草のパッチを貼る、経穴注射、灸など)を評価した。経穴(ツボ)は、鍼治療を行うために特別に選ばれた部位である。すべての試験では、比較群に等しく適用される異種の共介入を用いた。
研究助成
対象とした8件のランダム化臨床試験のうち3件が、学術的な研究助成を受けていた。他の5件には、支援や助成の情報に関する報告はなかった。
主要な結果
対象とした8件の試験のいずれもが、全死因死亡率、重篤な有害事象、健康関連の生活の質、B型肝炎関連の死亡、B型肝炎に関連した疾患の罹患率などの臨床的に重要なアウトカムを報告していなかった。無介入と比較した場合の鍼治療が、重篤ではないと考えられる有害事象について、有益なまたは有害な影響があるかは明らかではない。無介入と比較した場合の鍼治療は、B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)DNAが検出された人の割合を減少したようである(有効ではない代替アウトカム、1件のみの試験)。無介入と比較した場合の鍼治療は、HBe抗原が検出された人の割合に影響があるかは明らかではない(有効ではない代替アウトカム、2件のみの試験)。バイアスのリスクが高い1件または数件の試験で得られたデータであるため、これらの知見の解釈には注意が必要である。またこれらの知見を解釈する際には注意が必要である。データは、バイアスリスクの高い、1つまたは数件の試験でしか提供されておらず、これらの代用アウトカムは慢性<B型肝炎患者に関連性があることがまだ証明されていないからである。重篤ではないと考えられる残りの個別に報告された有害事象について、介入なしと比較した場合の鍼治療が影響を与えているかどうかは不明です。研究著者らが、研究デザインや方法に関して非常に不十分な情報しか提供しなかったため、本レビューに関連する可能性がある79件の研究データが使用できなかった。従って、慢性B型肝炎に対する鍼治療の有益性と有害性を評価する前に、ランダム化比較試験によるさらなる情報が必要である。
エビデンスの確実性
科学的根拠(エビデンス)の確実性とは、「レビュー結果が知見を支持または却下する上で、正確であることを示す信頼性の尺度」である。鍼治療が慢性B型肝炎感染症の人の死亡、健康関連の生活の質、HBV感染による死亡リスク、重篤な有害事象の有益性または有害性に与える影響に関して、これらのアウトカムのデータが不足しているため、エビデンスの確実性は決定できなかった。無介入と比較して、重篤ではないと考えられる有害事象、HBV DNAを検出した人の割合、HBe抗原を検出した人の割合に関する鍼治療のエビデンスの確実性は非常に低い。最後の2つのアウトカムに関しては、慢性B型肝炎患者のウェルビーイング(well-being)に関連しているかどうか、まだ科学的に証明されていない。1、2件、またはわずかな試験による不十分な報告からの不十分なデータにより、エビデンスの確実性は非常に低い。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD013107.pub2》