大うつ病は、非常によくある精神疾患で、長引く抑うつ気分と楽しい活動に対する興味の喪失を経験し、体重減少、不眠、倦怠、気力喪失、不適切な罪悪感、集中力低下、自殺念慮などの幅広い症状を伴う。心理療法はうつ病治療の抗うつ剤投与に代わるものとして重要かつ一般的である。これまで、認知行動療法(CBT)、行動療法、「第3世代」CBT、精神力動療法、人間性心理学的療法、統合的心理療法など、多くの異なる心理療法が開発された。
このレビューでは、(CBTのように思考の内容ではなく)思考の過程を標的とし、評価を下される方法ではなく、自分の思考に気づき、受け入れられるように手助けをする心理療法のグループひとつの、第3世代CBTに注目した。急性うつ病の人に対し、第3世代CBTが効果的かつ受容性であるかを確認するためにレビューを実施した。レビューには研究4件、合計224例が含まれた。研究はextended behavioural activation(2件)、acceptance and commitment therapy (ACT)(1件)、また別の第3世代CBT であるcompetitive mind training(1件)という異なる3種の第3世代CBTを解析した。3件は第3世代CBTと通常治療のコントロールを比較した。 4件目の研究ではACTと心理学的プラセボを比較した。その結果、第3世代CBTは短期間のうつ病治療に対し効果的であることが示唆された。しかし、レビューに含まれた研究数と参加者数は少なく、利用者群、介入、コントロールの状況も多様で、積極治療群に対する研究者の心理的影響も示唆されたため、その結論は信頼性に乏しく、非常に質の低いエビデンスしか得られなかった。また第3世代CBTの長期的な効果をみた研究が存在しないことにも注意しなければならない。臨床診療の現場において第3世代CBTが一般的になりつつあることから、第3世代CBTが急性うつ病患者の治療に役立つかどうかを明確にするためには、さらに適切にデザインされた研究を優先的に実施すべきである。
急性うつ病治療に対する第3世代CBTは、通常治療よりも効果的であることが、非常に低い質のエビデンスにより示唆された。急性うつ病治療に対する第3世代CBTは、通常治療よりも効果的であることが、非常に低い質のエビデンスにより示唆された。臨床診療の場における第3世代CBTに対する認知度が増すにつれ、政策立案者や臨床医、サービス利用者にその有効性のエビデンスを提示するには、短期および長期に渡る第3世代CBTの研究をより多く完了させることが重要である。
いわゆる認知行動療法の「第3世代」は心理療法の新たな世代を表し、精神的問題に対する治療への応用が増えつつある。しかし、急性うつ病に対する第3世代認知行動療法(CBT)の効果と受容性はまだはっきりしていない。
1.急性うつ病に対するすべての第3世代CBTの効果を調査するため、通常治療のプラセボ(待機者リスト/attention placebo/psychological placebo)と比較すること。
2.急性うつ病に対する異なる第3世代CBT(ACT、 compassionate mind training、機能分析心理療法、dialectical behaviour therapy、MBCT、extended behavioural activation、メタ認知療法)の効果を調査するため、通常治療のプラセボ(待機者リスト/attention placebo/psychological placebo)と比較すること。
3.急性うつ病に対するすべての第3世代CBTの効果を調査するため、異なるタイプの対照群(通常治療、無治療、待機者リスト、attention placebo、psychological placebo)と比較すること。
Cochrane Depression Anxiety and Neurosis Group Trials Specialised Register (CCDANCTR, 01/01/12)、The Cochrane Library(all years), EMBASE (1974-), MEDLINE (1950-)and PsycINFO (1967-)から関連するランダム化比較試験を含むものを検索した。また、CINAHL (2010年5月)と PSYNDEX (2010年6月)、その後追加発表されたあるいは未発表研究に対する掲載研究と関連レビューの参考文献リストも検索した。第3世代CBTに関連する検索語に制限して2013年5月にCCDANCTR検索を更新した(CCDANCTR 01/02/13)。
成人急性うつ病に対する第3世代CBTとコントロール状態を比較したランダム化比較試験。
2名のレビュー著者が独立して研究を同定し、データを抽出し、試験の質を評価した。必要な場合には研究の著者に追加情報を問い合わせた。GRADE法を用いてエビデンスの質を評価した。
本レビューには小規模研究(参加者224例)が含まれた。各群への割り付け過程についてはほとんど情報がなかった。 独立したアウトカム評価者を用いた研究はなく、エビデンスからは治療群に対する研究者の思い込みが示唆された。 4件の研究では多様な第3世代CBT (extended behavioural activation、ACT:acceptance and commitment therapy、 competitive memory training)とコントロールを対象とした。フォローアップ評価の実施された研究はなかった。通常治療(TAU)と比較すると、診療的反応率において第3世代CBTが有意に良好な結果を示した(研究3件、参加者 170例、リスク比 (RR)0.51、95% 信頼区間 (CI)0.27 - 0.95; 質は非常に低い)。脱落率による治療受容性は、第3世代CBTとTAUの間に何ら有意差は認められなかった(研究4件、参加者 224 例、 RR 1.01、95% CI 0.08 -12.30;質は非常に低い)。両解析とも強い統計学的異質性を示した。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。