従来の非薬物療法および薬物療法による不眠症の治療は多数の患者に有効であるが、鍼治療などの代替療法も広く施行されている。このレビューは、不眠症治療に対する鍼治療の有効性と安全性を検証するために実施された。33件のランダム化比較試験がこのレビューの選択基準を満たしており、参加者数は2293人であった。すべての研究でバイアスのリスクが高いと考えられた。参加者の特性、鍼治療の種類および使用された睡眠に関するアウトカム指標が多様であったため、信頼のおける結論を導くことができなかった。現時点では、鍼治療の有効性と安全性に関する情報を提供する質の高い臨床上のエビデンス(証拠)が不足している。
方法論の質が不良で、異質性が高く、出版バイアスが認められるため、現在のエビデンスは不眠症に対する鍼治療の支持・不支持を論ずるには厳格性を欠く。より大規模で良質な臨床試験が必要である。
従来の非薬物療法および薬物療法による不眠症の治療は多数の患者に有効であるが、鍼治療などの代替療法も広く施行されている。しかしながら、現時点でのエビデンスが不眠症に対する鍼治療を厳密かつ十分に支持しているかどうかは依然として不明である。
不眠症に対する鍼治療の有効性および安全性を評価すること。
Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、Dissertation Abstracts International、CINAHL、AMED、Traditional Chinese Medical Literature Analysis and Retrieval System(TCMLARS)、世界保健機関(WHO)Trials Portal(ICTRP)および2011年10月コクラン共同計画の関連するSpecialised registerを検索した。選択基準を満たしたすべての研究報告の参考文献リストをスクリーニングし、試験著者および該当分野の専門家に問い合わせを行った。
不眠症に対して何らかの鍼治療を評価したランダム化比較試験。鍼治療を他の治療法と併用した場合と鍼治療単独の場合を、プラセボ、擬似鍼(シャム)治療、無治療または鍼治療と併用した治療法と同一の治療法と比較した。異なる種類の鍼治療どうしを比較した試験または他の治療法と比較した試験は除外した。
2名のレビュー著者が独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。2値変数アウトカムにはオッズ比(OR)を、連続変数アウトカムには平均差を用いた。適切な場合は、メタアナリシスによってデータを統合した。
33件の試験を対象とした。15歳から98歳までの不眠症患者2293例が集積された。一部の参加者は、不眠症の原因となる内科疾患を有していた(脳卒中、末期腎不全、閉経期、妊娠、精神疾患)。鍼治療、電気鍼治療、指圧療法または磁気指圧療法を評価した。
指圧療法を無治療(研究数2件、参加者280例)またはシャム/プラセボ(研究数2件、参加者112例)と比較した結果、より多くの患者で睡眠の質の改善が認められた(無治療との比較:OR 13.08, 95%信頼区間[CI]1.79〜95.59、シャム/プラセボとの比較:OR 6.62、95%CI 1.78〜24.55)。一方で、感度分析で脱落者アウトカムの悪化が認められたことを考慮すると、鍼治療の有益性に関する結論をくだすことはできなかった。鍼治療を他の治療法と併用した場合を他の治療法単独の場合と比較した結果、睡眠の質が改善した患者の割合がわずかに上昇した(研究数13件、参加者883例、OR 3.08、95%CI 1.93〜4.90)。1件のサブグループ解析では、鍼治療の有益性は認められたが電気鍼治療の有益性は認められなかった。いずれの試験もバイアスのリスクは高く、不眠症の定義、参加者の特性、経穴および治療レジメンに異質性が認められた。概して効果サイズは小さく、信頼区間の範囲は広かった。出版バイアスが存在する可能性が高かった。有害作用の報告は稀で、重症度は軽度であった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.31]
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