進行胃癌に対する化学療法

背景

検診が定期的に実施されていない国では、全胃癌患者の80〜90%が腫瘍の手術が不可能な進行期に診断されるか、あるいは手術後5年以内に再発する。進行期に全身化学療法を開始する前に、Human Epidermal growth factor Receptor-2(ヒト上皮成長因子受容体2)(略してHER-2)の過剰発現の確認が必須であり、HER-2が過剰発現している場合は、禁忌がなければシスプラチン/フッ化ピリミジン製剤をベースとした化学療法とトラスツズマブ(すなわち、ヒト上皮成長因子受容体IIに結合するモノクローナル抗体)の組み合わせによる治療を受けるべきである。

試験の特性

生物医学データベース(MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Clinical Trials)を2016年6月まで検索した。ランダム化比較試験(RCT)64件をレビューの対象とし、そのうち60件には参加者計11,698例の全生存期間データが含まれていた。195件を種々の理由により除外した。

エビデンスの質

エビデンスの質は対照や評価されたアウトカムにより、非常に低いものから高いものにまで及んだ。質が低いとみなされた理由は、盲検的または独立した放射線学的批評がない、不精確さあるいは異質性(ばらつき)によるバイアスリスクのためである。

主な結果

支持療法(BSC)のみと比較して、化学療法では生存期間の改善(およそ6.7カ月)およびQOL(生活の質)が改善され、一次治療における併用化学療法では、5-FU単剤と比べて生存期間が(1カ月)改善された。

プラチナ製剤とフッ化ピリミジン製剤ベースの化学療法レジメンにドセタキセルを追加することよって、毒性の増加という代価を払うが、生存期間が(わずか1カ月超)延長すると思われる。プラチナ製剤とフッ化ピリミジン製剤による2剤併用化学療法に3つ目の薬剤(ドセタキセルあるいはエピルビシン)を追加することによる有益性が、追加による毒性を上回るかどうかは明らかではない。

したがって、腫瘍量と速やかに奏効する必要性のみならず、副作用の内容およびその副作用が各患者のQOLに及ぼす影響を考慮することが、レジメンを選択するうえで必須である。加えて、イリノテカンを含むレジメンでは、含まないレジメンと比較して全生存期間を(1.6カ月)延長した。

著者の結論: 

化学療法ではBSCと比較して生存期間が(6.7カ月)改善し、併用化学療法では5-FU単剤と比較して生存期間が(1カ月)改善された。全患者のHER-2を調べることが、HER-2陽性腫瘍患者の特定に役立つ可能性がある。HER-2陽性腫瘍患者には、禁忌がなければ、トラスツズマブとカペシタビンあるいは5-FUとシスプラチンの併用が有効であることが示されている。HER-2陰性の場合、イリノテカン、ドセタキセル、オキサリプラチンあるいは経口5-FUプロドラッグを含んだ全て異なる2剤および3剤併用療法が、進行胃癌における有効な治療の選択肢となり、それぞれのレジメンの副作用を考慮することが治療法を選択するうえで必須である。イリノテカンを含む併用療法とドセタキセルを含む併用療法[この場合、単剤あるいは2剤(プラチナ製剤/5-FUの併用)にドセタキセルを追加]では、上述の比較試験において有意な延命効果が示された。そのうえ、ドセタキセルを含む3剤併用レジメンでは奏効率が改善されたが、このドセタキセルを含む3剤併用療法(DCF療法、FLO-T療法)の有効性は毒性の増加により相殺されている。なお、オキサリプラチンを含むレジメンは、シスプラチンを含む同じレジメンに比べOSにおいて有益であり、S-1は5-FUを含むレジメンに比較して、大きくはないが延命効果を認める。

シスプラチン、5-FUおよびエピルビシンを含む3剤併用療法を、エピルビシンを含まない同様のレジメンと比べた時の延命効果は、二次治療で通常通り投与が行われ、シスプラチンをオキサリプラチンに、5-FUをカペシタビンに置き換えた場合でもなお有効であるかどうかは疑問である。さらに、3剤を用いるレジメンで確認された延命効果の程度は、米国臨床腫瘍学会(ASCO) (Ellis 2014)で最近定義されたものほど臨床的に意味のあるものではない。2剤のレジメンへの3つ目の薬剤追加で、毒性の増加という代価を払って延命効果が認められた比較とは対照的に、別の化学療法をイリノテカンに置き換えたレジメンとの比較では毒性の増加なしに延命効果(統計的有意性の境界域)との関連性が認められた。このことから、イリノテカン/5-FUを含んだ併用療法が一次治療の有力な選択肢となる。慎重に解釈する必要があるが、ある試験のサブグループ解析から、高齢患者ではシスプラチンベースのレジメンよりもオキサリプラチンから得られる利益の方が大きく、局所進行疾患の患者や65歳未満の患者では、5-FU、ドセタキセルおよびオキサリプラチンを含む3剤レジメンの方が5-FUとオキサリプラチンの併用療法よりも有用性がある可能性があるという仮説が示唆されるが、さらに確認が必要である。全身状態が良好な患者に対する二次治療の有益性は、複数のRCTにより確立されている。

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背景: 

胃癌は世界で5番目に多いがんである。欧米諸国では、多くの患者が進行期で診断されるか、あるいは根治目的の手術後に再発する。進行期の場合、標的療法による有意な利益を得られるのは、現在のところ、トラスツズマブと化学療法の併用療法を一次治療として受けたHER-2陽性の胃癌に限られている。二次治療では、ラムシルマブ単剤あるいはパクリタキセルとの併用で有意な延命効果が示されている。これらのことから、全身化学療法が進行胃癌治療の中心となっている。不確実性が残るのは、レジメンの選択についてである。

目的: 

進行胃癌における、化学療法と支持療法(BSC)の比較、併用化学療法と単剤化学療法さらに異なる化学療法の組み合わせで比較し有効性を評価する。

検索方法: 

2016年6月までのCochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINEおよびEmbaseと試験の参考文献リストを検索し、製薬企業と専門家に連絡を取ってランダム化比較試験(RCT)の確認を行った。

選択基準: 

進行胃癌における、静注あるいは経口による全身化学療法とBSCの比較、併用化学療法と単剤化学療法および異なる化学療法レジメンの比較RCTのみ。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者が別々に試験を確認し、データの抽出を行った。意見の相違があった場合は第3の研究者に意見を求めた。不足情報は、試験の著者に連絡を取って入手した。

主な結果: 

64件のRCTを調査し、このうち60件のRCT(参加者11,698例)から得られたデータを全生存期間(OS)のメタ解析に用いた。その結果、化学療法によって全生存期間がBSCよりも約6.7カ月延長することが明らかになった[ハザード比(HR)0.3、95%信頼区間(CI)0.24〜0.55、参加者184例、3試験、中等度の質のエビデンス]。併用化学療法では単剤化学療法よりもOSがわずかに(1カ月)延長したが(HR 0.84、95%CI 0.79〜0.89、参加者4,447例、23試験、中等度の質のエビデンス)、これは増加した毒性により部分的に相殺されている。シスプラチンがオキサリプラチンに、5-FUがカペシタビンに置き換えられた3剤併用療法におけるエピルビシンの有用性は明らかではない。

イリノテカンを含まないレジメンに比べ、イリノテカンではOSがわずかに(1.6カ月)延長した(HR 0.87、95%CI 0.80〜0.95、参加者2,135例、10試験、高い質のエビデンス)。

ドセタキセルでは、ドセタキセルを含まないレジメンと比べOSがわずかに(1カ月強)延長した(HR 0.86、95%CI 0.78〜0.95、参加者2,001例、8試験、高い質のエビデンス)。しかし、サブグループ解析の結果、ドセタキセルを含んだ併用療法(単剤あるいは2剤併用にドセタキセルを追加)によってOSが延長するかどうかは、中等度の質のエビデンスであるため定かではない(HR 0.80、95%CI 0.71〜0.91、参加者1466例、4試験、中等度の質のエビデンス)。他の化学療法の代わりにドセタキセルを用いても、おそらくOSに違いはほとんどないか全くない(HR 1.05、参加者479例、3試験、中等度の質のエビデンス)。カペシタビンを5-FUを含んだレジメンと比較した場合、おそらくOSに違いはほとんどないか全くないことがわかった(HR 0.94、95%CI 0.79〜1.11、参加者732例、5試験、中等度の質のエビデンス)。

オキサリプラチンは、シスプラチンを含むレジメンよりもOSを(1カ月弱)延長する可能性がある(HR 0.81、95% CI 0.67〜0.98、参加者1105例、5試験、低い質のエビデンス)。タキサン製剤・プラチナ製剤併用療法にフッ化ピリミジン製剤を加えることによって(加えない場合よりも)OSが延長するかどうかは、非常に低い質のエビデンスであったため定かではない(HR 0.86、95% CI 0.71〜1.06、参加者482例、3試験、非常に低い質のエビデンス)。S-1レジメンでは、5-FUを含むレジメンよりもわずかに(1カ月弱)OSが改善されたが(HR 0.91、95% CI 0.83〜1.00、参加者1793例、4試験、高い質のエビデンス)、アジア人と非アジア人ではS-1の用量およびスケジュールが異なるため、この結果が個々の集団へ適用されるかは定かではない。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 田村克代 翻訳、中村能章(国立がん研究センター東病院、消化管内科)監訳 [2017.11.03] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD004064》

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