レビューする疑問
我々は、高血圧成人においてアリスキレンがプラセボよりも血圧を低下させるのか、そして有害事象を増加させるのか判断したいと考えた。また、血圧変動、脈圧、心拍数の変化の有無、副作用による投薬中断の有無についても明らかにしたいと考えた。
我々は、これらの問いに関するすべての研究を見つけるため、利用可能な医学文献を検索した。このレビューに使用したデータは2017年2月までのものである。
背景
高血圧は、心臓発作と脳卒中を引き起こしうる。レニン阻害薬と呼ばれる新しい分類の薬剤は、高血圧の治療に適応がある。アリスキレンは、高血圧の治療薬として研究され承認されている現時点で唯一のレニン阻害薬である。
研究の特徴
合併症のない軽度から中等度の高血圧成人7439人を、アリスキレン75mg〜600mgの群またはプラセボ群に無作為に割り付け8週間継続した12件の研究が見つかった。すべての研究がノバルティス社の資金提供を受けていた。規制当局に提出された9つの臨床研究報告に記載されていた、有害事象に関する詳細情報を今回のアップデートに使用した。
主な結果
アリスキレンはプラセボに比べて降圧効果が高く、この効果は最大推奨投与量の300mg使用で、他の分類の降圧薬と同程度となり得るという結論に至った。アリスキレン300mg投与にて、血圧は上(収縮期血圧)が8ポイント低下し、下(拡張期血圧)が5ポイント低下した。アリスキレンは血圧変動には影響しなかった。心拍数と脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)の変化に関しては非常に限られた情報しかなかったので、これらのアウトカムについて検討することはできなかった。
短期間の研究であるため、副作用を評価することはできなかった。アリスキレンは死亡、非致死性の重篤な有害事象、副作用による治療中断を増加させなかった。最も頻度の高い有害事象は頭痛、下痢、めまい、疲労感だった。アリスキレン600mg投与群では、プラセボ群に比べ、下痢がかなり増加した。
エビデンスの質:推奨量を投与した際の血圧の低下に関しては、中等度の質のエビデンスがあり、有害事象のデータは研究に高度の報告バイアス、助成金バイアスが存在すると判断したため、質の低いエビデンスとなった。
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高血圧は死亡と合併症のリスクを上昇させる慢性的な状態である。レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換する酵素である(その後アンジオテンシンⅡに変換される)。レニン阻害薬は、アンジオテンシンⅠとアンジオテンシンⅡの両方の産生を抑えて血圧を低下させる新しい分類の薬剤である。
目的
原発性高血圧の治療における、プラセボに対するレニン阻害薬の用量依存性の降圧効果を定量化すること。
血圧変動、脈圧、心拍数の変化を判定し、有害事象(死亡、非致死的有害事象、全有害事象、有害事象による治療中断と、乾性咳嗽、下痢、血管浮腫等の特定の有害事象)を評価すること。
検索戦略
コクラン高血圧情報専門家は以下のデータベースの2017年2月までの無作為化比較試験(RCTs)を調査した。Cochrane Hypertension Specialized Register、the Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (2017, Issue 2)、MEDLINE (1946年から)、Embase (1974年から)、the World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform、ClinicalTrials.gov.である。言語、出版状態による制限はしなかった。さらに我々は欧州医薬品庁(EMA)で臨床試験報告を、またthe Novartis Clinical Study Results Database、参考文献から抽出した引用文献を調査し、出版予定と未出版の研究に関する関連論文の著者に連絡をとった。
選択基準
原発性高血圧の成人患者において、最短3~12週間継続して、レニン阻害薬単剤の固定用量単剤治療のプラセボと比較した降圧効果を評価した無作為、二重盲検、プラセボ対照試験を組み入れた。
データ収集と分析
この系統的レビューは、EMAが過去に行った9つの研究の臨床研究レポート(clinical study reports ; CSRs)の詳細情報に4つの研究を加えた包括的なアップデートである。残り3つのCSRは利用できなかった。
二人の評価者が独立に研究の適格性を評価し、データを抽出した。CSRと出版されたレポートが異なっているケースでは、CSRのデータを用いた。2値アウトカムはリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)で、連続アウトカムは平均差(MD)と95% CIで報告した。
主な結果
合併症のない軽度から中等度の高血圧患者7439人(大部分が白人で、平均年齢54歳)を対象とした12件の研究(平均追跡期間8週間)をレビューした。アリスキレンは評価された唯一のレニン阻害薬である。レビューに含めたすべての研究で、高度の症例減少バイアス、報告バイアス、助成金バイアスのおそれがあると評価された。
アリスキレンはプラセボと比較して、以下の用量依存性の収縮期/拡張期血圧(SBP/DBP)の低下効果を持つ:アリスキレン75mg(MD:-2.97、 95% CI :-4.76~-1.18)/(MD:-2.05、95% CI:-3.13~-0.96)mmHg(中等度の質のエビデンス)、アリスキレン150mg (MD:-5.95、95% CI -6.85~-5.06)/ (MD:-3.16、95% CI:-3.74~-2.58) mm Hg (中等度の質のエビデンス),アリスキレン300mg (MD:-7.88, 95% CI:-8.94~-6.82)/ (MD -4.49、 95% CI:-5.17~-3.82) mm Hg (中等度の質のエビデンス)、アリスキレン600mg (MD:-11.35、95% CI:-14.43~-8.27)/ (MD:-5.86、95% CI:-7.73~-3.99) mm Hg (低い質のエビデンス)。アリスキレン75mg、150mg、300mg投与で、用量依存性の降圧効果があった。アリスキレン600mgの降圧効果は300mgと変わらなかった(MD:-0.61、95% CI:-2.78~1.56)/(MD:-0.68、95% CI:-2.03 ~0.67)。アリスキレンは血圧変動には影響がなかった。心拍数と脈圧の変化に関してはごく限定された情報しかないため、これらのアウトカムのメタ解析はできなかった。
死亡と非致死的で重大な有害事象は増加しなかった。今回のレビューでは、8週間継続した研究で、有害事象によるアリスキレンの治療中断は増加しない可能性が示された(質の低いエビデンス)。下痢はアリスキレン600mgで用量依存性に増加した(RR:7.00、95%CI:2.48~19.72)(質の低いエビデンス)。報告された最も頻度の高い有害事象は頭痛、下痢、めまい、疲労感だった。
著者の結論
アリスキレンはプラセボと比較して血圧を低下させ,その効果は用量依存性である.この降圧効果の程度はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARBs)と同程度である。短期間のアリスキレン単剤治療は、死亡、非致死性の重篤な有害事象、有害事象による治療中断を増加させなかった。アリスキレン600mg投与では、下痢がかなり増加した。
《実施組織》井上円加翻訳 南郷栄秀監訳 [2017.6.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007066》