エムポックス(サル痘)に対する治療法

本レビューの目的は何か?

現在、エムポックス(サル痘)の治療に特化して認可された薬剤はないが、天然痘など類似したウイルス感染症の治療に認可されている薬剤の中には、感染の集団発生時においてエムポックスの治療に認可されているものがある。これらの薬剤の効果は、エムポックス患者を対象としたランダム化試験ではまだ研究されていない。ランダム化試験では、薬剤投与群とプラセボ(偽の薬)投与群など、少なくとも2つの治療群が設定され、研究参加者は、いずれかの群に無作為に割り振られる。本レビューは、ヒトにおけるエムポックスの治療の安全性と有効性に関するエビデンスを要約したものであり、ランダム化比較試験(RCT)からのエビデンスのレビューと、非ランダム化試験(NRS)からの安全性データのレビューの2部構成となっている。

ランダム化比較試験のレビュー

エムポックスの治療法における安全性と有効性の両方に関するランダム化比較試験を検索した。

非ランダム化試験のレビュー

エムポックスの治療法における安全性に関する非ランダム化試験のみを検索した。

要点

ランダム化比較試験のレビュー

現在進行中の5件のランダム化比較試験のデータが利用可能になれば、エムポックスの治療を受けた場合と受けなかった場合についての安全性と有効性を比較できるようになる。また、さまざまな治療法について、患者にとって重要な研究結果を比較することができるようになる。

非ランダム化試験のレビュー

経口抗ウイルス薬であるテコビリマットは、非ランダム化試験のエビデンスに基づくと、エムポックス患者において安全かつ容易に耐えうる程度の副作用であることを示していた。別の経口抗ウイルス薬であるブリンシドフォビルの治療を受けた3人の患者で、アラニントランスアミナーゼ(ALT)という肝臓でつくられる酵素の1つが突然増加し、治療が中止された。この結果は、薬剤による軽度の肝障害を示している可能性がある。より重度の薬物性肝障害は、重篤な肝障害や肝不全を引き起こす可能性があるため、ブリンシドフォビルを投与されたエムポックス患者では、この点を注意深く観察する必要がある。

レビューでは何が調査されたのか?

ランダム化比較試験のレビュー

エムポックス患者に対するテコビリマットの効果を評価する5件の進行中の臨床研究が確認された。これらの研究は、米国、カナダ、ブラジル、スイス、英国、およびコンゴ民主共和国において、合計1750人の参加者を集めることが目標となっている。

非ランダム化試験のレビュー

中央アフリカ共和国、英国、および米国で実施された3件のNRSが確認された。合計355人にテコビリマットが、3人にブリンシドフォビルが投与されていた。

レビューの主な結果

ランダム化比較試験のレビュー

現在、利用可能なランダム化比較試験によるエビデンスはないが、確認された5件の進行中の研究については、本レビューの更新時に評価が行われる予定である。

非ランダム化試験のレビュー

3件の非ランダム化試験で、エムポックスの治療を受けた358人(355人にテコビリマットが、3人にブリンシドフォビルが投与された)の参加者における薬剤の安全性が評価された。テコビリマットが投与された参加者において、有害事象の報告はわずかであった(355人中16人)。内訳は、軽度の有害事象が11件、精神衛生面への影響が2件、および肝酵素の増加が1件であった。また、死亡例が1件、貧血が1件報告されていたが、いずれも薬剤との関連性はないと考えられた。

ブリンシドフォビルを投与された3人の参加者全員において、アラニントランスアミナーゼ(ALT:肝細胞が損傷した場合に放出される肝酵素)の上昇が報告され、治療が中止されていた。ブリンシドフォビルが投与された症例のうち少なくとも2件では、アラニントランスアミナーゼ値の上昇が軽度の薬剤性肝障害によるものである可能性が考えられた。治療が中止されなかった場合、これが進行してより重篤な状態になるかどうかは不明である。本剤の投与にあたっては、肝酵素について注意深く観察する必要がある。

エビデンスの限界は?

ランダム化比較試験のレビュー

現在、ランダム化比較試験によるエビデンスは得られていない。

非ランダム化試験のレビュー

研究の対象となった参加者は全員が治療を受けていたため、プラセボが投与された場合や、治療を行わなかった場合と比較することはできなかった。また、ブリンシドフォビルについて調査された研究は非常に小規模だった。

本レビューはいつのものか?

ランダム化比較試験のレビュー

2023年1月25日時点における検索結果に基づくものである。

非ランダム化試験のレビュー

2022年9月22日時点における検索結果に基づくものである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、小林絵里子 翻訳[2023.09.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015769》

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