DPP-4(ジペプチルペプチダーゼ-4)阻害薬、GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体作動薬、およびSGLT-2(ナトリウム-グルコース供役輸送担体-2)阻害薬の心血管病を持つ患者に対する効果

要点

- GLP-1RA(グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬)とSGLT2i(ナトリウムーグルコース共役輸送担体-2阻害薬)(新規糖尿病治療薬の2つ)は、糖尿病と心血管病(心臓と血管の病気)を併せ持つ患者の心血管病による死亡、およびあらゆる原因による死亡のリスクを低下させる可能性がある。

- SGLT2i薬は心不全による入院リスクを軽減し、GLP-1RA薬は致命的および非致命的な脳卒中の発症を低下させる可能性がある。

- これらの薬が、糖尿病でない人の心血管の健康にも良い影響を与えるのか、あるいは糖尿病患者に見られる効果は、これらの薬の血糖値コントロール効果だけによるものなのかについては、さらなる研究が必要である。

心血管病とは何か?

心血管病とは、心臓と血管に影響を及ぼす病気の総称である。世界的に主要な死因の一つとなっている。血液中の脂肪成分は血管内に停滞して血管を詰まらせ、心臓が血液を正常に送り出せなくなる心不全、脳卒中や心筋梗塞などの問題を引き起こす可能性がある。運動不足や太っている、あるいは高血圧や高コレステロール、糖尿病の人は、心血管病のリスクがある。

新しいタイプの糖尿病治療薬であるDPP4i(DPP-4阻害薬)、GLP-1RA、SGLT2iは、血糖値をコントロールするために開発された。また、心血管病を持つ糖尿病患者の心血管合併症を予防する可能性もある。

何を知りたかったのか?

DPP4i、GLP-1RA、およびSGLT2iの薬が、糖尿病の有無にかかわらず、心血管病を持つ患者の心血管病治療に有効であるかを知りたかった。また、これらの薬が副作用を引き起こすかも知りたかった。

これらの薬を服用している患者が、心血管病による死亡、致命的または非致命的な心筋梗塞、致命的または非致命的な脳卒中、あらゆる原因による死亡、心不全による入院、および腎機能の悪化、低血糖、骨折、膵臓の炎症(膵炎)などの副作用の出現のリスクが高いか低いかに興味があった。

実施したこと
DPP4i、GLP-1RA、およびSGLT2iの治療薬の二つ、またはプラセボ(本物の薬に似ているが、有効成分を含まない薬)と比較検討した研究を検索した。

研究結果を比較・要約し、研究方法や規模などの要因から、エビデンスの信頼度を評価した。

何がわかったのか?

31件の研究が見つかった。20件の研究(129,465人の参加者)から得られたエビデンスを統合し分析した。20件のうち6件はDPP4iを、7件はGLP-1RAを、7件はSGLT2iを、全てプラセボと比較していた。参加者の年齢は60~71歳で、ほとんどの人が糖尿病患者であった。

主な結果

DPP4i薬をプラセボと比較:

- 心血管病やあらゆる原因による死亡リスク、あるいは心筋梗塞や脳卒中のリスクを低下させない。

- 心不全による入院のリスクもおそらく低下させない。

- 腎機能悪化や骨折のリスクを増加させず、低血糖リスクもおそらく増加させない。

- 膵炎のリスクを高める可能性がある。

GLP-1RA薬をプラセボと比較:

- 心血管病、およびあらゆる原因による死亡のリスクをわずかに低下させ、脳卒中リスクもわずかに低下させる。

- おそらく、心筋梗塞のリスクを低下させることはない。

- 心不全による入院のリスクも低下させない。

- 腎機能悪化のリスクを低下させるが、膵炎には影響しない可能性がある。

- 低血糖や骨折への影響は不確かである。

SGLT2i 薬をプラセボと比較:

- おそらく、心血管病およびあらゆる原因による死亡のリスクをわずかに低下させる。

- 心不全による入院のリスクを低下させる。

- 心筋梗塞のリスクを低下させず、おそらく脳卒中のリスクも低下させない。

- おそらく、腎機能悪化のリスクを低下させる。

- 膵炎には影響を与えず、骨折にも影響を与えない。

ある薬と別の薬を直接比較した研究はなかったが、ネットワークメタアナリシスという統計手法を用いて、ある薬と別の薬を比較することができた。結果は、上記と同様であった。

エビデンスの限界は何か?

心血管病またはその他の原因による死亡、心筋梗塞、脳卒中、および心不全による入院については、エビデンスに確信、もしくは中程度の確信がある。副作用に関する情報を提供した研究は少なく、また、副作用の多くを報告していなかったので、副作用に関するエビデンスはより確信が低い。ほとんどの研究では、糖尿病患者のみを対象としていた。これらの結果は、薬の心血管病への影響よりもむしろ糖尿病コントロールがうまくできたかどうかの研究であったためであった。

このレビューの更新状況

エビデンスは2020年7月16日までのものである。

訳注: 

《実施組織》堺琴美、星進悦 翻訳[2021.11.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD013650.pub2》

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