メインコンテンツに移動

多嚢胞性卵巣症候群と不妊症の診断を受けた女性に対する、排卵誘発のためのメトフォルミン

レビューの論点

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) を有する女性の排卵を誘発する目的において、メトフォルミンの有効性と安全性を他の排卵誘発剤と比較したエビデンスについてレビューした。出生率、副作用としての消化器症状、他の生殖に関するアウトカムについて検討した。

背景

PCOSである女性は、しばしば排卵 (卵巣が卵子を放出すること) しないため、無月経だったり月経回数が少なかったりして、不妊症を引きおこすことがある。また、肥満や糖尿病などの問題が起こることもある。体がエネルギー源として糖分を使用できるようにするホルモンであるインスリンの濃度が高いと、PCOSの原因になるかもしれない。一般的に、肥満女性ではインスリンの濃度が高い。メトフォルミンは、体内においてインスリンがより効果的に働けるようにし、PCOSである女性の排卵を改善するのに役立つ。しかしながら、メトフォルミンは、吐き気、下痢や便秘(消化器症状)などの副作用を引き起こす可能性がある。

研究の特性

メトフォルミンの単独使用、クロミフェン (CC) やレトロゾールまたは腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)との併用、CC単独、レトロゾール単独、LOD単独、プラセボ (見せかけの治療)、あるいは無治療について、PCOSである女性を対象にして比較を行った研究を検索した。このレビューは更新版である。4552人の女性を対象にした、41件のランダム化比較試験 (女性が無作為に治療に割り当てられた試験) を同定した。そのうち13件の研究は、今回の更新で新たに組み込んだ。研究の結果を組み合わせ、研究の質を評価して、結果がどれだけ確信できるものか判断した。本エビデンスは2018年12月現在のものである。

主な結果

メトフォルミン対プラセボあるいは無治療の比較

メトフォルミンは無治療やプラセボと比較して出生率を高めるかもしれないが、メトフォルミンを服用している女性は消化器症状の副作用をより多く経験するだろう。プラセボでは出生率が19%であったのに対し、メトフォルミンでは19~37%の間であった。胃腸症状の副作用のリスクは、プラセボで10%だったが、メトフォルミンで22~40%と高かった。メトフォルミンを服用している女性は、おそらく妊娠率も排卵率も高くなるだろう。メトフォルミンがプラセボや無治療と比較して、流産率に与える影響は不明である。

メトフォルミンとCCの併用対CC単独の比較

メトフォルミンとCCの併用がCC単独と比較して出生率を上げるかどうかは不明だが、おそらく胃腸症状の副作用の頻度は増える。CC単独での出生率は24%だが、メトフォルミンとCCを併用すると23~34%になる。CC単独では、消化器症状の副作用は9%の頻度で起こるが、メトフォルミンとCCの併用では21~37%にまで上昇する。妊娠率は、メトフォルミンとCCの併用で恐らく改善するだろう。排卵率はメトフォルミンとCCの併用で改善するかもしれない。流産に対する影響に関する、明確なエビデンスはなかった。

メトフォルミン対CCの比較

すべての研究を検討した結果、エビデンスの質が非常に低く、結果に一貫性がなく、確信できる結論を出せないと判断した。肥満女性ではメトフォルミンによる出生率が低かったのに対し、非肥満女性にはメトフォルミンによる効果があるようだ。CCを服用した非肥満女性の出生率は26%であり、メトフォルミンの服用では26~50%に増加する可能性がある。一方、肥満女性では、22%の出生率がメトフォルミンでは5~13%に低下する可能性がある。同様に、メトフォルミンを服用している肥満女性では、臨床妊娠率と排卵率が低く、メトフォルミンを服用している非肥満女性の妊娠率は高いかもしれない。排卵率に明確な違いはなかった。メトフォルミンまたはCCを服用している女性の間で、流産率の違いがあるかどうかは不明である。消化器症状の副作用について報告している研究はなかった。
女性のBMIによって治療方法を選択した方がよいかもしれないが、結論付けるには更なる研究が必要である。メトフォルミンによる糖尿病などの改善が限られていたことは、特に過体重であるPCOSの女性において、減量と生活習慣の改善が重要であることを強く示唆している。

エビデンスの質

エビデンスの質は、高いものから非常に低いものまであった。主な問題は、研究方法が良くないあるいは不明瞭であること、すべての結果を報告していないこと(バイアスのリスク)、不正確性や矛盾があること、であった。

訳注

《実施組織》杉山伸子 内藤未帆 翻訳[2020.03.23]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
《CD013505》

Citation
Sharpe A, Morley LC, Tang T, Norman RJ, Balen AH. Metformin for ovulation induction (excluding gonadotrophins) in women with polycystic ovary syndrome. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019, Issue 12. Art. No.: CD013505. DOI: 10.1002/14651858.CD013505.