未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子変異のある非小細胞肺がんに対する標的治療

背景

肺がんの中で最も多いのは、非小細胞肺がん(NSCLC)である。NSCLCの約5%は、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)と呼ばれる遺伝子の変異が原因となる。進行した(治癒不可能な)ALK変異陽性NSCLCに対して標的治療薬が開発されており、化学療法よりも効果が高いことがわかっている。最初に開発されたALK阻害薬はクリゾチニブである。さらに新しいALK標的薬も開発されており、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ensartinib[エンサルチニブ]、ロルラチニブなどがある。本レビューでは、ALK変異陽性NSCLCを標的とする治療薬に着目し、その効果を確認した。

目的

本レビューの主な目的は、ALK変異陽性NSCLC患者に対してALKを標的とする治療薬を使用した場合、化学療法よりも再発なく生存期間が長くなり、かつ副作用が少なくなるかどうかを明らかにすることである。また、新しいALK標的薬がクリゾチニブより優れているかどうかも評価することとした。

研究の特性

2021年1月7日までの主要な医学データベースと学会の記録を検索した。その結果、11件の研究(参加者2,874人)が見つかった。6件の研究ではALK標的薬と化学療法を比較し、5件の研究では新しいALK標的薬とクリゾチニブを比較していた。これらの研究では、ALK変異陽性進行NSCLC患者を対象に、各薬剤を初回治療またはそれ以降の治療として使用していた。複数の試験で計5種類のALK阻害薬(アレクチニブ、ブリガチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ、ロルラチニブ)が使用されていた。

結果

ALK標的薬を投与された患者では、がんが進行することなく、化学療法を受けた患者よりも生存期間が長かった。このような改善は脳転移のある患者にも認められた。ALK標的薬の投与を受けた患者は、化学療法を先に受けていた場合でも、全体的に生存期間が長くなっていた。ALK標的薬では、化学療法と同じ頻度の副作用が生じていた。ALK標的薬では、化学療法よりも多くの患者に腫瘍の縮小がみられ、症状が悪化するまでの期間が延長された。

新しいALK標的薬による治療を受けた患者では、脳転移のある患者も含めて、クリゾチニブによる治療を受けた患者よりもがんが進行することなく、生存期間が延長していることが示された。初回治療として新しいALK標的薬による治療を受けた患者では、全体的に生存期間が長くなる可能性が高くなる一方、副作用の頻度は同程度であった。新しいALK標的薬では、クリゾチニブよりも多くの患者に腫瘍の縮小がみられた。

報告されたほとんどの評価指標のエビデンスは、中等度または高い確実性があると評価された。

結論

難治性ALK変異陽性肺がん患者に対する最良の初回治療は、アレクチニブ、ブリガチニブ、セリチニブ、ロルラチニブなどの新しいALK阻害薬である。このうちどれが最善なのか、また、各治療薬を投与した後にがんが進行した場合どのような治療を行うべきかについては、さらに研究が必要である。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 河合 加奈 翻訳、田中 謙太郎(九州大学病院呼吸器科)監訳 [2022.03.15] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD013453.pub2》

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