トラネキサム酸(血液凝固を促進する薬剤)は、慢性鼻副鼻腔炎の内視鏡手術における出血を減少させるか?

慢性鼻副鼻腔炎とは何か?

慢性鼻副鼻腔炎とは、副鼻腔(顔の骨の中にあり、鼻腔とつながっている空洞)の炎症が12週間以上続いている状態である。慢性鼻副鼻腔炎になると、鼻づまりや鼻水、顔の痛みや圧迫感、嗅覚の低下や喪失などの症状が現れる。また、鼻の中にポリープができ、症状が悪化することもある。

慢性鼻副鼻腔炎はどのように治療されるのか?

慢性鼻副鼻腔炎は、通常、生理食塩水のスプレーや洗浄液、抗炎症剤(ステロイド剤)の点鼻薬、抗菌薬、ステロイドの錠剤などを用いて治療される。このような治療を行っても症状が続く場合は、手術が行われることがある。

何を調べようとしたのか?

血液凝固を促進する薬剤であるトラネキサム酸が、内視鏡を用いた副鼻腔手術(内視鏡下副鼻腔手術)における出血を減少させるか、また、合併症のリスクを低下させることができるかどうかを調査した。出血を少なくできるということは、手術時に外科医が副鼻腔の状態をよく観察することができるということである。

何を行ったのか?

トラネキサム酸を使用(静脈内投与、またはスプレーや点鼻薬による投与)した治療について、プラセボ(偽の治療)、またはトラネキサム酸を使用しなかった場合とを比較した研究を検索した。小児と成人両方の研究参加者を対象とした。研究結果を比較、要約し、研究方法や研究規模などの要素から、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何が見つかったのか?

内視鏡下副鼻腔手術を受けた患者を対象に、トラネキサム酸と生理食塩水(プラセボ:偽の治療)を比較した14件の研究(合計942人の参加者)が見つかった。薬剤は、10件の研究では静脈から投与され、3件の研究では鼻から投与されていた。すべての研究において、使用された薬剤の量は異なっていた。

その結果、トラネキサム酸は副鼻腔内の視認性を大きく改善し(13件の研究より)、手術中の総失血量をわずかに減少させる可能性があり(12件の研究より)、また、手術後24時間以内の重篤な副作用(脳内の血栓形成または脳卒中などの事象。投与群、プラセボ群共に起こらなかった)を引き起こさない可能性があることがわかった(8件の研究より)。残念ながら、重篤な副作用について、より長期間の追跡調査におけるエビデンスはなかった。

手術時間は10件の研究で調査されており、トラネキサム酸を使用した場合の方がわずかに短縮していると思われた。

手術に関連した合併症、および予定通りに手術を完了することの困難さについて調査した研究は2件のみであり、トラネキサム酸群とプラセボ群との間に差は認められなかった。しかし、これらの合併症の発生はまれであるため、これらの研究に基づいて結論を導くことはできなかった。

6件の研究において、手術後の鼻出血で介入(鼻タンポンの留置または追加の手術)が必要とされた症例について調査されていた。生理食塩水(プラセボ)で治療された患者において、術後の鼻出血が報告された研究は2件のみだった。トラネキサム酸は、術後出血に対して影響を与えない可能性がある。

これらの研究のエビデンスからは、トラネキサム酸を静脈から投与するのが良いか、経鼻的に投与するのが良いかについて結論づけることはできない。また、トラネキサム酸の最適な用量についても結論は出せない。

エビデンスの限界は何か?

手術野の視認性の改善に関するエビデンスには中等度の信頼性があるが、さらなる研究により、効果の推定に影響をもたらす可能性がある。手術中の出血量の減少に関するエビデンスについては、信頼性が低く、さらなる研究により、大きく異なる結果が出る可能性がある。術後24時間以内の重篤な副作用(脳内の血栓形成や脳卒中)の発生については、さらなる研究によって知見が変わることはおそらくないと確信している。

本エビデンスはいつのものか?

2022年2月時点におけるエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.07.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012843.pub2》

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