治療抵抗性統合失調症に対する電気けいれん療法

レビューの論点

電気けいれん療法(ECT)は、それ以前の治療に反応性を示さなかった統合失調症の患者にとって、安全かつ効果的な治療になりうるのか?

背景

ECTは、通常、両側性に頭皮に配置された電極を介して電気刺激を施すことで、けいれん発作を誘発させることが伴う治療法である。ECTはかつて統合失調症患者の治療として広く用いられてきた。しかし、ECTには長期的な有害作用を及ぼす可能性があるという懸念と、抗精神病薬の開発により、その使用は減少している。

方法と結果

ランダム化比較試験(被験者が2つ以上のグループにランダムに振り分けられて行われる研究)の検索が2015年に実施され、さらに2017年に更新された。我々は1285人の治療抵抗性統合失調症患者を含んだ15件の研究を対象とした。参加者の年齢層は18から46歳であった。[標準治療+ECT]の群と、[標準治療+偽のECT(非活性のECT)]の群を比較した研究が1件見つかった。また、[標準治療+ECT]の群と、[標準治療+抗精神病薬の追加投与]の群を比較した研究が1件見つかった。標準治療の群と、[標準治療+ECT]の群を比較した研究が12件見つかった。ECTのみで治療した群と、抗精神病薬のみで治療した群を比較した研究が1件見つかった。

我々が着目した主要アウトカムは、治療に対する臨床的に重要な反応、認知機能、研究からの早期離脱、精神状況、全般的機能、入院日数および死亡であった。検索に含まれる研究において、被験者の死亡は報告されなかった。それぞれの主要アウトカムに関するエビデンスの質は低いもしくは非常に低いものであった。しかし、ただ1つのアウトカムに関してのみエビデンスの質は中程度であった。このエビデンスの質の低さは、研究の実施方法(例えば、被験者の治療が盲検法で行われなかったなど)や少ないサンプルサイズによるところが大きかった。

標準治療の群と[標準治療+ECT]の群を比較した研究では、標準治療にECTを加えることで、治療に関する臨床反応においてより有益な効果をもたらす可能性があることを示唆する、中程度のエビデンスが存在した。また、標準治療にECTを加えることで短期記憶障害のリスクが増す一方で、Global Assessment of Functioning のスコアには良い影響を与える可能性があることを示唆する、非常に低い質のエビデンスが存在した。さらに、標準治療にECTを加えることで、簡易精神症状評価尺度においてプラスの効果をもたらす可能性があることを示唆する、低い質のエビデンスが存在した。

その他の比較に関するエビデンスも、低いものから非常に低い質のものであり、総合的な観点から、群間の比較で治療結果における明らかな差異は見られなかった。

結論

我々は標準治療にECTを加えることで、標準治療と比較して臨床反応にプラスの効果をもたらすということを示唆する、中程度の質のエビデンスを発見した。しかしながら、標準治療にECTを加えることが、他のアウトカムの利益や害に関連するということを明確に示すには、現在利用可能なエビデンスでは弱すぎる。さらに[標準治療+偽のECT]や[標準治療+抗精神病薬の追加投与]と比較した際の、[標準治療+ECT]の効果と安全性に関するエビデンスは不足している。そして、ECTのみを使用した治療に関するエビデンスは不足している。

訳注: 

《実施組織》 岩見謙太朗 (北海道大学) 翻訳、澤頭亮 (北海道大学) 監訳[2019.10.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011847》

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