頭頸部癌の放射線治療後の顎骨障害を予防するための歯科治療

レビューの論点

本コクランレビューでは、頭頸部癌に対する放射線治療を受けた患者に対して、顎骨(あごの骨)の壊死および露出を予防する最善の方法について調査を行った。この病態は放射線性骨壊死(ORN)と呼ばれている。

背景

放射線性顎骨壊死は、頭頸部癌治療の一環として放射線治療を受けた後の患者に生じることのある深刻な問題である。放射線性骨壊死とは、放射線照射によって組織が損傷した結果、骨が壊死したり露出したりすることを指す。放射線性骨壊死は治療が難しいため、予防策を講じることが重要である。本レビューでは、放射線性骨壊死の予防に用いられている治療法について検討した。

研究の特性

本レビューは2019年11月5日時点で最新のものである。過去に頭頸部癌のために放射線治療を受けた342人の患者を含む試験4件を対象に、放射線性骨壊死を予防するための3種類の方法を検討している。

- 放射線治療前に健康な歯を抜いた後、抜歯部の骨に多血小板血漿(PRP)を使用する。血漿とは血液凝固に役立つ特殊なタンパク質を含む血液の成分のひとつであり、PRPは細胞の成長を促進する濃縮血漿である。損傷した組織にPRPを注入すると、それが刺激となって新しい健康な細胞が増殖し、治癒が早まる可能性がある。

- う歯(虫歯)のせいで抜歯をすると、放射線性骨壊死のリスクが高くなる。このため、放射線治療を受ける患者の虫歯予防は大変重要である。本レビューでは、放射線治療後の虫歯予防に使用される、フッ素ゲルと通常よりもフッ素高配合の歯磨き剤を比較した試験を検討した。

- 高気圧酸素治療とは、血液供給を改善するために高圧室で酸素を吸入することであり、損傷した組織の治癒に役立つ可能性がある。2件の試験では、抜歯または歯科インプラント挿入時の高気圧酸素治療と抗生物質治療が比較されていた。抗生物質は、細菌の増殖を抑える薬剤である。

主な結果

1つ目の試験では、健康な歯を抜いた後の骨に多血小板血漿を使用しても、放射線性骨壊死(ORN)の減少は示されなかった。2つ目の試験では、ORNの症例は報告されず、フッ素ゲルを使用した場合と通常よりもフッ素が高配合の歯磨き剤を使用した場合で差はなかった。第3の試験では、抜歯後に高気圧酸素治療を受けた患者のほうが抗生物質治療を受けた患者よりもORNの発現が減少したことが示された。第4の試験では、高気圧酸素治療および抗生物質治療の併用と抗生物質治療単独の間でORNの発現に差はなかった。

各介入の有害な作用については、明確な報告がない、または重要なものはなかった。

エビデンスの確実性

得られた知見の確実性は非常に低い。対象とした試験4件は各種バイアスのリスクが高く、どの試験も重要な点を詳細に述べているわけではなかった。さらに、試験参加者数が少なかった。

結論

頭頸部放射線治療を受ける患者に対して放射線性顎骨壊死を抑止するために、どの介入が優れているかを判断するには、十分なエビデンスは得られていない。この分野に関して、さらに多くの患者を対象にした大規模で適切な試験をもっと多く行う必要があることが示唆される。

訳注: 

《実施組織》 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)坂下美保子 翻訳、河村光栄(京都医療センター放射線治療科)監訳 [2020.04.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD0011559.pub2》

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