経鼻カニューレによる高流量酸素療法による新生児の呼吸補助

レビューの論点

経鼻カニューレによる高流量酸素療法は、呼吸のサポートを必要とする重症新生児の健康転帰を改善するか?

背景

新生児が呼吸困難に陥った場合、肺に空気を出し入れする(換気)ために外部からの呼吸サポートが必要になることがある。この呼吸のサポートにはさまざまな方法がある。侵襲的人工呼吸では、赤ちゃんの気管にチューブを挿入して空気を送り込む。非侵襲的人工呼吸では、口や顔に装着するマスクや、鼻孔のすぐ内側に装着する小さなチューブを介して空気を送り込む。これらの方法は、侵襲的人工呼吸に伴う合併症のいくつかを避けることができるため、しばしば好んで用いられる。

高流量経鼻カニューレ(HFNC)酸素療法とは何か?

HFNC酸素療法は、非侵襲的呼吸補助の1つである。これは、加温、加湿された酸素ガスを、鼻孔のすぐ内側に配置されたチューブを介して、毎分2リットル以上の流量で供給するもので、他の酸素療法よりも優れた効果をもたらすと提案されている。しかし、生後1か月(新生児期)の正期産児(妊娠37週以降に出生した児)においては、HFNCの安全性と有効性に関するエビデンスは限られており、この集団での使用に関する意見の一致はみられない。

知りたかったこと

高流量経鼻カニューレ酸素療法が、他の非侵襲的支援方法と比較して、生後1か月間に呼吸補助を必要とする重篤な乳児の健康転帰を改善するかどうかを調べたいと考えた。また、この治療が好ましくない影響を及ぼすかどうかも調べたかった。

実施したこと

2022年12月までの検索で、合計654人の新生児を対象にHFNC療法を検討した8件の研究を同定した。これらの研究のうち6件(625人)が一次解析データとなった。これは、研究の結果を比較して要約し、研究の規模や使用した方法の限界などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼度を評価するものである。そのうち4件の研究では、HFNCをCPAP(持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる非侵襲的な代替方法(機械で一定の圧力に加圧された空気が、顔や口に装着したマスクや鼻孔のすぐ内側に装着したチューブを通して気道に送り込まれる)と比較した。2件の研究で、HFNCと低流量経鼻カニューレ(LFNC)(最大ガス流量2L/分までの酸素療法)が比較された。

主要な結果

最初の結果は、HFNCとCPAPの比較である。死亡例はゼロであった。HFNCは治療失敗にほとんど影響を及ぼさないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。1件の研究では慢性肺疾患(生後28日目に酸素吸入が必要)を調査したが、この基準を満たす乳児はいなかった。HFNCは、呼吸補助の持続時間(酸素の追加の有無にかかわらず、乳児が何らかの形で追加的な呼吸補助を受ける期間)にはほとんど影響しないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。HFNCは、集中治療室(ICU)での入院期間にほとんど差はないと思われる。HFNCは、鼻外傷(鼻組織の損傷)や腹部過膨張(腹部に空気が溜まり、過度の膨張を引き起こす)の発生率を減少させる可能性があるが、そのエビデンスは非常に不確かである。

2件目の結果は、HFNCとLFNCの比較によるものである。死亡例はゼロであった。HFNCが治療失敗をわずかに減少させる可能性があることを示唆するエビデンスがある。どちらの研究も慢性肺疾患については調査していない。HFNCは、呼吸補助の期間、ICUでの滞在期間、在院日数にほとんど影響を及ぼさないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。両研究とも有害事象はゼロであった。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスに対する信頼性は中等度から、非常に低度の範囲にあった。エビデンスの信頼性を低下させた主な要因は3つある。第一に、結果に誤差が生じやすい方法を用いた研究もある。第二に、研究間で結果の一貫性がない。最後に、いくつかの研究は非常に小規模なものであった。

結論

CPAPと比較した場合、HFNCは治療失敗にほとんど差がない可能性がある。HFNCは、呼吸補助の期間にほとんど影響を及ぼさないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。HFNCは、集中治療室(ICU)での入院期間にほとんど差はないと思われる。HFNCは鼻腔外傷と腹部過度の緊張の発生率を減少させるかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。

LFNCと比較すると,HFNCが治療失敗をわずかに減少させる可能性があることを示唆するエビデンスがある。HFNCは、呼吸補助の期間、ICUでの滞在期間、在院日数にほとんど影響を及ぼさないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。

新生児における呼吸補助のためのHFNCの使用について、エビデンスに基づいたガイドラインを策定するには十分なエビデンスがない。このような患者集団におけるHFNCの健康上の有益性や有害性をさらに評価するためには、より大規模で方法論的に確実な試験が必要である。

訳注: 

《実施組織》小林絵里子,阪野正大 翻訳[2024.05.07] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD011010.pub2》

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