睡眠中に発症した脳梗塞に対する2つの再開通療法の効果

レビューの論点

朝起きたときに、新たに発症した急性脳梗塞がわかった患者に対して、閉塞した血管を再開通させる治療(再開通治療)は有効だろうか?

背景

脳卒中の多くは脳の血管に血栓(血の塊)が詰まることによって起きる(虚血性脳卒中=脳梗塞)。これは世界中で死亡や身体障がいの主な原因のひとつとなっている。血栓溶解剤により詰まった血管を再開通させる治療(血栓溶解療法)や、血栓を取り除くための機器(血栓回収療法)は、できるだけ早く(発症から数時間以内に)血流を再開できれば、脳梗塞後の回復をよりよくする可能性がある。

脳梗塞のおよそ5件に1件が睡眠中に起きている(起床時脳梗塞)。睡眠中に起きた脳梗塞は、正確な発症時刻がわからないため、いままで血管再開通療法の適応外と考えられてきた。しかし、その中で特定の基準を満たす患者を選んで行った最近の複数の研究では、血管再開通療法が有益である可能性が示されている。

検索期間

2021年5月24日までに発表されたランダム化比較試験(参加者を2つかそれ以上の治療グループのどちらかにランダムに割り付けて行う研究方法のひとつ)を検索した。

研究の特徴

今回は合計980人を含む7件の試験を組入れた。睡眠中に脳梗塞となった患者775人を含む5件の試験では、静脈内投与による血栓溶解療法か、または対照群(プラセボ(疑似治療)または標準的な内科的治療のみ)のどちらかに無作為に割り付けていた。また、睡眠中に脳の太い動脈に血栓が詰まって脳梗塞となった患者205人を含む2件の試験では、機器を使った血管内血栓回収療法と標準的な内科的治療を合わせて行ったグループと、内科的治療だけのグループとに無作為に割り付けていた。

主な結果

睡眠中に起きた(何時間前に発症したのかわからない)脳梗塞でも、特定の基準を満たす患者を選ぶことで、再開通療法によって身体障がいの重症度(機能的アウトカム)や生存率を改善できることがわかった。一方で、治療により脳内出血のリスクが高まる可能性も無視することはできない。どんな患者を選んで治療すればいいのかについて、脳画像による基準や発症からの経過時間、またはその両方に関して、何が最も適した選定基準であるかはまだ明確でなく、レビューに組み入れた試験に関してもこれらの基準は各試験で異なっていた。したがって、この点を詳しく調査するためにさらに多くの試験が必要である。

エビデンスの質

レビューに組み入れた試験は、バイアス(何らか原因で、本当は有効な治療が有効でない(逆に有効でない治療が有効である)という誤った結果になってしまうこと)のリスクは低いまたは不明であり、エビデンスの確実性は全体的に高いと判断した。

訳注: 

《実施組織》 橋本早苗、中野雅資 翻訳[2022.2.13]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010995.pub3》

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