メインコンテンツに移動

医療現場で小児の痛みをそらすためにバーチャルリアリティを利用することのメリットとリスクとは?

なぜこの論点が重要か?

健康診断や注射などの医療処置は、小児に痛みを与えることがある。このような状況では、苦痛や痛みへの恐怖を最小限に抑えるために、おもちゃや遊びを使って子どもの注意をそらすことが一般的である。

気をそらす方法の一つの形として、バーチャルリアリティ(VR)がある。VRとは、現実のように見えるシーンやオブジェクトを備えた人工的な環境(例えば、凍った世界や野生動物公園など)のことである。VRは下記の3種類に分けられている。

- 完全没入型:ユーザーは通常、ヘッドフォンとスクリーン付きのヘッドセットを装着し、実際にその中にいるかのように仮想環境と対話する。

- 半没入型:ユーザーは部分的に仮想的な環境(例えば、フライトシミュレータのように、コントロールは実在するがウィンドウにはバーチャルな画像が表示される)と対話する。

- 非没入型:ユーザーは別のモニター(コンピュータなど)で仮想世界に接続されるが、それでも現実世界を体験することができる。

VRが子どもの痛みから気をそらすことができるかどうか、また、それが副作用(望ましくない効果)と関連しているかどうかを調べるために、エビデンスをレビューした。

どのようにしてエビデンスを特定し、評価したのか?

我々は、医学文献でランダム化比較試験(人々が2つ以上の治療グループの1つにランダムに割り付けられる臨床試験)を検索した。この研究デザインは治療効果に関する最も確固たるエビデンスを提供するからである。それらの結果を比較してまとめた。最後に、研究方法や規模、研究間での所見の一貫性などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

わかったこと

4歳から18歳まで1,008人を対象とした17の研究が見つかった。医療処置には、注射、採血、創傷包帯の交換、運動などが含まれていた。研究では、VRで気をそらす方法として利用していない、またはVRを使用しないで気をそらす方法を利用したものと比較した。異なるタイプのVRを比較した研究はなかった。

医療処置中

利用可能なエビデンスへの信頼性がかなり低いため、VRが医療処置中の自己申告による痛みを軽減するかどうかはわからない(3つの研究)。

観測者によって評価された痛みの変化を調査した研究は2件のみである(例えば、0(痛みなし)から10(激しい痛み)の範囲の評価尺度を使用している)。ある研究では、完全没入型VRはVRを使用しないで気をそらす方法に比べて有益であることを示されたが、他の研究では異なった結果が報告されている。

完全没入型VRは、VRを使用しないで気をそらす方法(2つの研究)や気をそらす方法を利用していない場合(1つの研究)よりも、小児の行動(例えば、泣いたり、痛みを示すように体の一部をこすったりするなど)に基づいて観測者が評価した痛みを効果的に軽減する可能性がある。

非没入型VRは、気をそらす方法を利用していない場合と比較して、小児の行動に基づいて観測者が評価した痛みに対して有益ではなかった(1つの研究)。

医療処置後

利用可能なエビデンスへの信頼性がかなり低いため、VRが医療処置後における自己申告による痛みを軽減するかどうかはわからない(16つの研究)。

5つの研究では、観測者によって評価された痛みの変化を調査した。2つの研究では、気をそらす方法を利用していない場合と比較してVRは有益であり、別の2つの研究ではVRを使用しないで気をそらす方法と比較しても有益な結果が得られた。しかし、ある研究では、VRを使用しないで気をそらす方法よりも優れた結果は得られなかった。

小児の行動に基づいて観測者によって評価された痛みを調査している2つの研究では、相反する結果が報告されている:没入型VRは、ある研究では仮想の方法と比較して有益であったが、他の研究ではそうではなかった。

小児の行動に基づいて観測者が評価した痛みに対して、VRと気をそらす方法を利用していない場合の違いがあるかどうかは、利用可能なエビデンスへの信頼度が低すぎるので分からない(1つの研究)。

副作用

利用可能なエビデンスの信頼性が低すぎるため、VRが副作用と関連しているかどうかはわからない(11件の研究)。

結論

特定したエビデンスにはほとんど自信がなかった。VRの気をそらす効果が、子供に与える痛みに違いをもたらすかどうかは、我々のレビューからは不明である。これからは、さらに大規模で整った研究が必要とされる。

レビューの更新状況

本レビューのエビデンスは2019年10月現在のものである。

訳注

《実施組織》 季律、冨成麻帆 翻訳[2020.11.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010686.pub2》

Citation
Lambert V, Boylan P, Boran L, Hicks P, Kirubakaran R, Devane D, Matthews A. Virtual reality distraction for acute pain in children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020, Issue 10. Art. No.: CD010686. DOI: 10.1002/14651858.CD010686.pub2.