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経腟分娩後の出血量を減らすためのオキシトシンの筋肉内投与と静脈内投与の比較

経腟分娩直後の大量出血を防ぐために静脈内に注射したオキシトシンの効果と安全性について、筋肉内に注射した場合と比較したランダム化比較試験によるエビデンスを検索した。

論点

妊産婦死亡の多くは、出産後24時間以内に発生する。そのうち1/4までは、過剰な出血(分娩後異常出血という)が原因である。低所得国では、産後の出血を予防・治療するための薬剤(子宮収縮剤)が常に入手できるわけではない。オキシトシンは子宮収縮剤の一つである。オキシトシンは、子宮の収縮を助けることで出産後の大量出血を防ぐ。出産中または出産直後の母親に、静脈や筋肉に注射して投与する。

重要である理由

胎盤が子宮からどれだけ速くはがれるか、そして、胎盤に血液を送っていた血管を閉じるためにどれだけ十分に子宮が収縮するかによって、赤ちゃんを出産した後の出血量は異なる。

オキシトシンを静脈内に直接注射すると、非常に短時間で効果が現れ、その効果の持続時間は比較的短い。オキシトシンを筋肉内に注射すると、作用するまでに数分かかるが、効果は長く持続する。静脈内に注射をするには、特別な技術と滅菌された器具が必要だが、それらが常に使えるとは限らない。これに対し、筋肉への注射は短時間で済み、比較的技術を必要としない。

静脈内に注射されたオキシトシンは、少量の薬液(原液のまま)を急速に使用した場合は特に、血圧の急激な低下などの重篤な副作用を引き起こすことがある。

得られたエビデンス

2019年12月19日にランダム化比較試験のエビデンスを検索し、7件の研究(7,817人の女性が参加)を確認した。これらの研究では、経腟分娩中または直後に、オキシトシンを静脈内に注射した場合と、筋肉内に注射した場合を比較していた。すべての研究が病院で実施され、ほとんどの研究で単胎正期産の赤ちゃんを経腟的に出産した女性を対象としていた。2件を除くすべての研究で、女性と病院スタッフの両方が、どのようにオキシトシンが投与されたかを認識していた(盲検化されていない)。このことは結果に影響したかもしれない。総じて、含まれた研究はバイアスのリスクが中等度または低度であったため、得られたエビデンスの確実性は概して中等度から高いものであった。

その結果、静脈内にオキシトシンを注射された女性は、筋肉内にオキシトシンを注射された女性と比較して、500mL以上の出血(6試験、7,731人)および輸血(4試験、6,684人)のリスクが低いことがわかった。この2つの結果のエビデンスは確実性が高かった。静脈内にオキシトシンを注射した場合、筋肉内にオキシトシンを注射した場合と比較して、1,000mL以上の重篤な出血のリスクはおそらく減少するだろう(4試験、6,681人、エビデンスの確実性は中程度)。最も質の高い2件の研究(1,512人)では、静脈内にオキシトシンを注射した場合、筋肉内にオキシトシンを注射した場合と比較して、1,000mL以上の出血のリスクを下げることがわかった。オキシトシンを投与するこれら2つの方法は、子宮を収縮させるために追加の薬を必要したかどうかについて差がなさそうだったが、この結果の確実性は高くない(6試験、7,327人、確実性の低いエビデンス)。どちらの方法でオキシトシンを投与しても、血圧低下などの副作用を経験した女性の数はほぼ同じで、安全であると考えられる(4試験、6,468人、エビデンスの確実性は中等度)。静脈内にオキシトシンを注射された女性の方が、集中治療室への入室、意識喪失、臓器不全など、大量出血に関連した重篤な合併症を経験した人は、おそらく少ないだろう(4試験、7,028人、中等度の確実性のエビデンス)。含まれた研究のいずれにおいても、死亡例は報告されていない。

これらの研究では、オキシトシン投与方法に対する女性や医療従事者の満足度については報告されていない。

結果が意味すること

オキシトシンは、経腟分娩直後の大量出血を防ぐためには、筋肉内に注射するよりも静脈内に注射する方が効果的である。オキシトシンを静脈内に注射しても、筋肉内に注射した場合と比べて安全性に問題はなく、副作用も同様であった。今後の研究では、オキシトシンを投与する2つの異なる方法における、女性や医療従事者の受容性を重要な研究成果として考慮する必要がある。また、オキシトシンを静脈内に注射することで得られるメリットが、高い費用を上回るかどうかを調査することも重要である。

訳注

《実施組織》杉山伸子 内藤未帆 翻訳、[2021.12.16] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD009332.pub4》

Citation
Oladapo OT, Okusanya BO, Abalos E, Gallos ID, Papadopoulou A. Intravenous versus intramuscular prophylactic oxytocin for reducing blood loss in the third stage of labour. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020, Issue 11. Art. No.: CD009332. DOI: 10.1002/14651858.CD009332.pub4.