学童期前の幼児を対象とした自閉症スペクトラム障害の診断ツールには、どれだけの精度があるか?

レビューの論点

学童期前の子どもを対象とした自閉症スペクトラム障害の診断ツールには、どれだけの精度があるか?

自閉症スペクトラム障害を正確に診断することが、なぜ重要なのか?

ASDがあるのに正しく診断されない偽陰性の問題としては、ASDがある幼児が早期に介入を受けられなかったり、家族が支援を受けたりASDについて学ぶ機会を逃したりすることがあげられる。対照的に、ASDがないのに正しく診断されない偽陽性の問題としては、家族に与えるストレスや、不必要な介入や治療を実施することによって、限られている資源を無駄にすることがあげられる。

レビューの目的

学童期前の幼児のASDを診断するのに頻用される診断ツールのうち、どれが最も精度が高いかを見出すことである。この研究の問いに答えるために、コクラン研究者は、出版された13件の研究をレビューした。

レビューで調べたこと

合計6つの診断ツールを調べた。そのうち4つの診断ツール(自閉症診断面接 改訂版 (ADI-R), ギリアム自閉症評価尺度(GARS), 自閉症スペクトラムの半構造化面接 (DISCO), 発達的、次元的および診断的インタビュー (3di)は、親や保護者との面接から子どもの行動に関する情報を収集するタイプであった。ほかにも、訓練を受けた専門家が課題を子どもに実施し行動を観察する(ADOS)するタイプや、子どもの行動観察と親や保護者との面接を組み合わせたタイプ(CARS)があった。

レビューの主な結果

レビューには、あわせて2,900人の子どもを対象に実施した21種類の分析が組み込まれた。分析結果は、3つの診断ツールからしか得られなかった。その3つの診断ツールとは、ADOS (モジュール1と2)とCARSとADI-Rであった。これらの診断ツールを1,000人の幼児に実施し、このうち740人にASDのあると仮定した場合、ADOSは696人、CARSは592人、ADI-Rは385人の精度でASDがあることを検出できるが、ASDのない幼児でもADOSは52人、CARSは31人、ADI-Rは42人をASDがあると検出してしまう。また、1,000人の幼児のうち、260人にASDがないと仮定した場合、ADOSは208人、CARSは229人、ADI-Rは218人の精度でASDがないことを検出できるが、ASDのある幼児でもADOSは44人、CARSは148人、ADI-Rは355人をASDがないと検出してしまうことが分かった。

図1を参照。

ADI-RとADOSを併用した研究が1件あったが、ADI-Rを併用してもADOSだけの時と精度に違いはなかった。

このレビューの結果は、どの程度、信頼に値するか?

小児の診断には、様々な最良推定臨床アプローチが用いられる。この方法は研究で頻用されるが、臨床診断に推奨されている複合領域アセスメントでは、いつもこの方法を再現できるとは限らない。

ADOSとCARSとADI-Rが実際よりも精度が高いように見える理由は、研究によって実施方法に問題があったり、利益相反があったりしたからだと思われる。また、これらの診断ツールがASDの発症率の低い場所で用いられる場合、ASDのない子どもの多くがASDの診断を受ける可能性が高い。

上記の数値は、数々の分析の平均値である。しかし個々の分析の推定には、ばらつきがあるので、ADOSがいつも上記通りの結果を出すとは限らない。診断ツール間の精度の違いを調べた研究もそうであるが、これまで実施されたすべての研究に組み入れられた被験児の数は不十分なので、分析結果の信頼性は低い。

このレビューの結果をどこまで一般化できるか?

組み入れられた研究は、オーストラリア、カナダ、インド、オランダ、イギリスとアメリカ合衆国で実施されていた。臨床サービスを受けたり、研究に参加したりした言語障害、発達遅滞、知的障害、精神疾患などが併存する6歳未満あるいは、平均年齢が6歳未満の幼児が組み入れられていた。

レビューの意義

レビューの結果によると、ASDのある幼児を見逃さない精度はADOSが一番高く、ASDのない幼児を誤ってASDがあると検出してしまう精度は、ADOSもCARSもADI-Rも同様であることが示唆されている。ASDの発症率が高い標本において、ADOSには承認できる精度がある。しかしながら、ASDの発症率が低い標本では、過剰診断になることが十分あり得る。この知見は、現在のASD診断ツールに関する推奨、すなわち、複合領域アセスメントの一端を担うという役割のために使用すべきであって、ASD診断ツールだけで診断を下すべきでないという方針を支持している。

このレビューはいつアップデートされたか?

このレビューは2016年7月にアップデートされた。

訳注: 

《実施組織》宮原資英、阪野正大 翻訳[2020.08.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009044.pub2》

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