胎盤遺残を娩出させるためのニトログリセリンの使用

経腟分娩後の胎盤遺残(子宮内に胎盤が残ること)は、放置すると多量の出血を伴い、死に至ることもある珍しい事象である。胎盤遺残には、子宮壁から剥離しても子宮頸管から排出されないものと、胎盤が子宮収縮を阻害しているために剥離できないものがある。従来の方法では、脊髄麻酔や全身麻酔をかけて、子宮内に手を入れて胎盤を取り出すこと(用手剥離)を行っていたが、感染症や麻酔薬によるリスクがあり、特別な設備も必要だった。子宮の収縮を抑える薬(子宮収縮抑制剤)を単独で、または子宮の収縮を促す薬(子宮収縮剤)と併用して、胎盤の娩出を促し、この侵襲的な処置の必要性を回避することができる。このレビューでは、分娩後15分以上経過しても胎盤が残っていた女性175名を、プラセボまたは子宮収縮抑制剤としてのニトログリセリンのいずれかに無作為に割り付けた3件の試験を対象とした。両群ともに、子宮の収縮を促すオキシトシンを投与した。ニトログリセリンとオキシトシンの併用投与は、胎盤の用手剥離の必要性、出血量、重度の産後出血の発生率を減少させなかった。ニトログリセリンの投与では、頭痛は起こらなかったが、軽度の血圧低下とそれに伴う心拍数の上昇が見られた。3件の試験のうち2件はバイアスのリスクが低かったが、異なる種類の胎盤遺残を管理する上でのニトログリセリンや他の子宮収縮抑制剤の役割を検証するためには、十分なサンプル数を有する大規模な試験で確認する必要がある。このレビューに含んだ試験では、胎盤遺残の種類が特定されていなかった。このレビューで使用されているいくつかの科学的な専門用語については、用語集で説明している(付録1参照)。

訳注: 

《実施組織》 小林絵里子、杉山伸子 翻訳[2021.10.08]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007708.pub3》

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