全身性エリテマトーデス(全身に影響を及ぼす自己免疫疾患)の人の皮膚疾患に対するさまざまな治療の利益とリスクは?

なぜこの問題が重要なのか?

全身性エリテマトーデス(SLE、別名「ループス」)は、体の免疫(防御)システムが誤って体のあちこちの健康な組織を攻撃してしまう病気である。全世界で750万人が罹患している。発症者の約70%は、鼻や頬に発疹などの皮膚トラブルを起こす。また、SLEは関節や筋肉に痛みを感じたり、極端に疲れやすくなったりすることがよくある。症状は一時的に改善することもあれば、急に悪化することもある(フレア)。重症の場合、SLEは心臓、肺、脳、腎臓に生命を脅かすような損傷を与えることがある。

SLEには治療法がない。しかし、症状を改善するための治療がある。特に、皮膚トラブルの治療には、さまざまな選択肢がある。

- 口から飲む(経口)、クリームとして塗る、注射をするなどの方法で用いられる薬がある。

- トークセラピーなど、皮膚の悩みに対処するためのセラピー。

- その他、漢方薬や光治療、メイクアップなどのアプローチもある。

SLEの患者さんにとってどの治療が最も効果的なのか、また副作用を比較するために、研究調査から得られたエビデンスを検討した。

どのようにエビデンスを特定し、評価したか

SLEの皮膚疾患に対する何らかの治療法を比較した研究を医学文献で検索した。

ープラセボ(疑似)治療;

ー無治療、

- 別の治療法、または

- 同じ治療薬を別の用量で投与する。

結果を比較し、全ての研究からのエビデンスを要約した。最後に、研究方法や規模、研究間の結果の一貫性などの要因に基づいて、エビデンスの確実性を評価した。

レビューの結果

その結果、11,232名(ほとんどが女性)を対象とし、43の異なる治療法を検討した61件の研究が見つかった。ほとんどの治療期間は1年で、最長48か月まで追跡調査された。

ここでは、5種類の経口薬(ヒドロキシクロロキン、クロロキン、メトトレキサート、シクロスポリン、アザチオプリン)の効果について、本レビューで得られた主な結果を報告する。

肌荒れの解消

ヒドロキシクロロキンがプラセボよりも皮膚トラブルを消失させることに優れているか劣っているかは、これに関する情報を報告した試験がないため、わからない。

エビデンスとして分かったことは以下の通りである:

- クロロキンはプラセボに比べ、12か月後の皮膚障害の消失に関して優れている可能性がある(1件の試験、24名)。

- メトトレキサートとクロロキンを比較すると、6か月後に皮疹を消失させる頻度にほとんど差がない可能性がある(1件の試験、25名)。

- メトトレキサートはプラセボに比べ、6か月後の皮疹の消失に関して優れている可能性がある(1件の試験、41名);および

- シクロスポリンとアザチオプリンでは、12か月後の皮膚障害の消失頻度にほとんど差がない可能性がある(1件の試験、25名)。

皮膚トラブルの部分的な消失(皮膚状態の50%以上の改善)

ヒドロキシクロロキンがプラセボと比較して、12か月後に皮膚障害を少なくとも部分的に消失させるのに優れているか劣っているかは不明である。これは、エビデンスがあまりにも不正確であるためである(1件の試験、20名の妊婦)。

他の試験では、治療が皮膚トラブルの部分的な消失にどのように影響するかを調べたものはない。

再燃

6か月後にヒドロキシクロロキンの方がプラセボよりも再燃が少ないと思われることを示すエビデンスがある(1件の試験、47名)。

メトトレキサートはプラセボと比較して、12か月後にフレアが起こりやすいか、起こりにくいかは不明である(1件の試験、86名)。

他の研究では、治療がフレアにどのように影響するかについての情報は報告されていない。

有害事象

エビデンスはしばしば不正確であり、治療がプラセボや他の治療と比較して有害事象をより多く、あるいはより少なくもたらすかどうかは明らかではない。

有害事象のデータは限られており、報告もまちまちであったが、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、メトトレキサートには胃や肝臓の障害などよく知られた有害事象がある。ヒドロキシクロロキンやクロロキンは目の問題を起こす可能性があり、メトトレキサートは妊娠中に服用すると発育中の赤ちゃんに重大な害を及ぼす可能性がある。

その他の結果(評価項目)

治療が病気の重症度や生活の質(QOL)の他の側面にどのように影響するかは分かっていない。研究がこれに関する情報を報告していないためである。

この結果が意味すること

プラセボと比較した場合、SLEの人を対象とした研究では、以下のような結果が得られている。

- ヒドロキシクロロキンで起こる再燃はおそらく少ない。

- メトトレキサートとクロロキンは、皮膚障害を消失させるのに適しているかもしれない。

しかし、副作用に関する情報は不足していた。

本レビューの更新状況

本レビューのエビデンスは2019年6月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳[2022.03.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007478.pub2》

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