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熱傷に対する補助療法としての免疫栄養

全体表面積の広範におよぶ熱傷では、組織の損傷や崩壊により、重度の栄養不良と同様の状態になることがある。また、有効な皮膚バリアが破壊され、体温調節に異常を来たし、感染や体液喪失を起こしやすくなる。これまでの研究では、自然に存在する特定の添加物による栄養補給が、免疫系機能を強化して感染や死亡率を低下させ、入院期間を短縮する可能性について調べられてきた。これらの添加物は免疫栄養素と呼ばれるもので、グルタミン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、オメガ3脂肪酸(魚油)などがある。本レビューの著者は、重度の熱傷患者を対象に免疫栄養素の効果を評価したランダム化比較試験を探した。

本レビューの結果では、グルタミンだけが死亡リスクを低下させる可能性があることを示している。しかし、これらの研究を統合した全患者数が少ないため、結果が不正確な可能性がある。免疫栄養の有効性を判断するにはさらなる研究が必要である。

Background

全体表面積(TBSA)の広範におよぶ熱傷では、身体が衰弱段階になり、適切な栄養素が極度に不足するのと同様の状態になることがある。また、有効な皮膚バリアが破壊され、正常な体温調節機能を失い、感染や体液喪失のリスクが増加する。栄養補給は重度の熱傷の管理でよく行われるが、特定の栄養素によって免疫系の活性を変える方法は、免疫栄養と呼ばれる。免疫栄養の標的となりうるのは、粘膜関門機能、細胞防御、および局所性・全身性炎症の3つである。免疫栄養にもっともよく使われる栄養素はグルタミン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、オメガ3(n-3)脂肪酸、ヌクレオチドである。

Objectives

免疫栄養素(グルタミン、アルギニン、BCAA、n-3脂肪酸(魚油)、免疫栄養素の併用、既知の免疫栄養素の前駆体)を追加した食事と、等窒素の食事(総蛋白量は変わらないが構成要素は変わることがある食事)を比較して、重度の熱傷患者の臨床アウトカムに対する効果を評価すること。

Search strategy

2012年8月12日に検索を実施した。Cochrane Injuries Group's Specialised Register、コクラン・ライブラリ、MEDLINE(OvidSP)、Embase(OvidSP)、ISI WOS SCI-EXPANDED & CPCI-S、および4つの他のデータベースを検索した。関連性のあるジャーナルや会議の議事録を手作業で検索し、参考文献リストを調べ、製薬会社に連絡を取った。2014年10月に調査を更新したが、まだ検索結果を統合していない。

Selection criteria

標準的な栄養レジメンへの免疫栄養素の追加と、等窒素の食事や他の免疫栄養剤を比較したランダム化比較試験。

Data collection and analysis

2名のレビュー著者が手作業の検索や電子検索の結果を調べ、適格と考えられる研究を同定した。3名のレビュー著者がそれぞれこれらの研究の全文を取得して精査し、研究を選択した。議論して相違を解消した。選択した研究のデータを2名のレビュー著者がそれぞれ抽出して入力した。3人目のレビュー著者がこれらのデータをチェックした。2名のレビュー著者がそれぞれ選択した研究のバイアスのリスクを評価し、議論や3人目、4人目のレビュー著者との協議により相違を解消した。アウトカム指標は死亡率、入院期間、熱傷創感染率、非創感染率(菌血症、肺炎、尿路感染症)とした。

Main results

選択基準を満たす16件の試験(678例)を同定した。合計で16件の試験が解析データに寄与した。特に、大半の研究がランダム化の方法やITTの原則について報告していなかったため、研究結果の解釈には注意を要する。グルタミンはもっとも一般的な免疫栄養素で、選択した16件のうち7件の研究で投与された。グルタミンの使用により、等窒素のコントロールと比較して入院期間が短縮し(平均期間 -5.65 日、95% 信頼区間(CI) -8.09~-3.22)、死亡率が低下した(統合したリスク比(RR)0.25、95% CI 0.08~0.78)。しかし、サンプル・サイズが小さいため、これらの結果は偽陽性効果を反映する可能性がある。研究の知見では、グルタミンの熱傷創感染や非創感染に対する有効性を示唆していない。調査した他のあらゆる免疫栄養剤について、死亡率、入院期間、熱傷創感染率、非創感染率に対する効果を示すエビデンスはなかった。

Authors' conclusions

死亡率の低下に対するグルタミンの有効性を示すエビデンスを見出したが、この知見は解釈に注意を要する。本システマティックレビューで解析した研究の参加者数は、グルタミンの使用を推奨または否定する結論を出すには、不十分であった。グルタミンは死亡率の低下に有効な可能性があるが、グルタミンや他の免疫栄養剤の全般的な効果について、大規模な研究で判断する必要がある。

訳注

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
 CD007174 Pub2

Citation
Tan HB, Danilla S, Murray A, Serra R, El Dib R, Henderson TOW, Wasiak J. Immunonutrition as an adjuvant therapy for burns. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 12. Art. No.: CD007174. DOI: 10.1002/14651858.CD007174.pub2.