透析患者におけるC型肝炎ウイルス(HCV)感染症の治療

本レビューの論点は何か?

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)によって引き起こされる肝臓の病気であり、注射針などの血液で汚染されたものを再使用した結果、人から人へ感染する。HCVは体内に長期間潜伏し、肝臓を徐々に破壊したり、肝硬変、あるいは肝臓がんを引き起こす場合がある。症状としては、脱力感、吐き気、黄疸、体重減少などがみられ、肝酵素やビリルビンの値が上昇することがある。

HCVは世界中に蔓延しており、国によって異なるが、慢性的な感染者数は約7,000万人であり、これは慢性肝疾患に罹患している患者の40%を占めるとされている。また、長期間にわたって血液透析を受けている人では、HCVへの感染率が高くなる。HCV感染症の治療には、これまで使用されてきたインターフェロンに代わり、経口投与が可能な直接作用型抗ウイルス薬(DAA)が使用されるようになった。DAAは、有効性および忍容性(副作用に対する許容性)に優れ、ほぼすべての患者に有効である。対してインターフェロンは、皮下注射で投与する必要があり、有効性が低く、副作用も多い。DAAによる治療期間は12週間だが、インターフェロンでは、効果を高めるためのリバビリンの併用の有無に関わらず、24〜48週間以上の治療期間が必要となる。また、腎機能障害のある患者では、リバビリンの蓄積により、赤血球の破壊や貧血が起こる場合がある。

何を行ったのか?

前回の2015年のレビュー以降、HCV感染症の治療薬として新しい薬剤(DAA)が利用されるようになったため、今回、DAAの有効性を含むエビデンスについて更新を行った。今回の更新では、透析患者におけるHCVの治療について、ランダム化比較試験による新たなエビデンスについて検索した。

何を見つけたのか?

今回の更新では、約600人の参加者を対象とした3件の研究が見つかった。これらの研究を、血液透析を対象とした10件の研究を対象とした過去のレビューに追加することができた。DAAのグラゾプレビルとエルバスビルを併用した場合、治療終了時までの奏効率は100%を示したが、その後の追跡データがないため、エビデンスの質は高くなかった。インターフェロンにリバビリンを追加することで、より良好な持続的ウイルス陰性化(治療後も血液中にウイルスが存在しないこと)が得られ、病気の再発の可能性は減少したが、有害事象は増加した。テラプレビルに用量の異なるリバビリンと、用量と投与期間の異なるPEG化したインターフェロン(ペグインターフェロン)を併用した場合、ほぼ同様の治療終了時における効果と持続的ウイルス陰性化が得られたが、エビデンスの質は高くなかった。ペグインターフェロンは標準的なインターフェロンよりも短期的な効果は高いものの、持続的ウイルス陰性化ではより高い効果は得られず、忍容性は同等であった。ペグインターフェロンの投与量を増やしても、効果は改善しなかったが、忍容できる範囲であった。本レビューの限界は、少数の参加者を対象とした少数の研究しか利用できなかったこと、また、副作用の影響が予想される重篤な疾患を有する患者が過去の研究から除外されたことである。したがって、利用可能なエビデンスは質の高いものではなかった。一般的な患者におけるインターフェロンに取って代わった新しい薬、すなわちDAAに関するエビデンスは限られており、またその質も高くはなかった。

結論

本レビューは、透析患者におけるHCV感染症に対する利用可能な治療法についてのレビューの更新版である。現在、インターフェロンに代わってDAAが使用されている。グラゾプレビルとエルバスビルは、ほぼすべての患者で治療終了後にも効果を示すが、追跡調査における持続的ウイルス陰性化に関するデータがなかったため、エビデンスの質は高くなかった。テラプレビル、リバビリン、およびペグインターフェロンを異なる用量と期間で併用した場合の有効性はほぼ同等であり、エビデンスの質は高くはなかった。ペグインターフェロンは、持続的ウイルス陰性化はしないものの、治療終了時までの効果は通常のインターフェロンよりも高く、また忍容性は同等であった。ペグインターフェロンは、投与量を増やしても効果は改善されないが、忍容性は高用量でも低用量でも同等であった。リバビリンを併用すると、治療終了後の効果が改善されるが、有害事象が多くなった。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.09.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007003.pub3》

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