肩の痛みに対する鍼治療

鍼は肩の痛みの治療に効くか。この質問に答えるために、科学者は9件の研究を分析した。研究では、肩の痛みを訴えた500名以上を対象とした。人々は、鍼治療、プラセボ(偽治療)、超音波、穏やかな動作または運動を通常20〜30分間、週に2〜3回、3〜6週間行った。研究の規模は小さく、最高品質ではないが、本コクランレビューは、現時点でのベストエビデンスを提供している。

肩こりの原因は何か。鍼治療は肩こりに効くのか。肩の痛みは、数々の異なる状態によって引き起こされうる。これは、回旋腱板炎、関節周囲炎または癒着性関節包炎(凍結肩)によって引き起こされうる。肩の痛みは時には自然に消失することがあるが、12〜18カ月まで続くことがある。痛みおよび/または腫れを和らげるために薬剤を使用する治療や使用しない治療を行う。鍼治療は、肩の痛みの治療にますます使用されている非薬物療法である。鍼治療により痛みを和らげる化学物質が体内に分泌されたり、神経の痛みの伝達を遮断したり、身体のエネルギー(気)や血液が体内を滞りなく流れるようになると考えられている。鍼治療が効くのかまたは安全なのかは不明である。

鍼治療はどの程度良く効くのか。痛みや機能に対する鍼治療による改善は、2〜4週間の偽治療を受けた効果とほぼ同じであった。

1件の研究では、4週間後に鍼治療が偽治療よりも肩機能を改善することが示された。しかし4カ月後は、0〜100のスケールでわずか4ポイント追加の改善にとどまり、鍼治療による改善効果にあまり変化が認められなかった。

1件の小規模な研究では、鍼治療+運動が、最大5カ月間、痛み、可動域および機能の改善において、運動単独よりも優れていることが示された。

鍼治療は安全であるか。多くの研究において、副作用は評価されなかった。1件の研究で、失神、頭痛、めまい、腫れ、足の脱力などの副作用が鍼治療または偽治療とでほぼ同じであることが示された。鍼が肩の痛みの治療に効くのか、または有害であるかを言及する十分なエビデンスはない。

わずかなエビデンスにより、鍼治療は短期間(2〜4週間)の痛みや機能を改善する可能性がある。

著者の結論: 

臨床的および方法論的に多様性のある試験数が少ないため、本レビューからは、ほとんど結論が得られない。肩の痛みに対する鍼治療の使用を支持または反論するエビデンスはほとんどないが、痛みや機能に関して短期的な利益があるかもしれない。さらに適切にデザインされた臨床試験が必要である。

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背景: 

肩の疾患には、一般的に用いられる多くの治療法がある。鍼治療に注目した本レビューは、癒着性関節包炎(凍結肩)、回旋腱板炎および変形性関節症などの肩の疾患への多様な介入に対する一連の検討の一つである。筋骨格痛を治療する鍼治療は、鎮痛効果をもたらすため、使用が増えており、肩の障害に対する使用は、今日までシステマティック・レビューでは評価されていない。

目的: 

肩の痛みがある成人に対する鍼治療の有効性と安全性を決定すること。

検索戦略: 

Cochrane Controlled Trials Register、MEDLINE、EMBASEおよびCINAHLを開始から2003年12月まで検索し、関連する試験の参考文献リストをレビューした。

選択基準: 

肩の痛みがある成人に対する鍼治療と、プラセボまたは他の介入とを比較したすべての言語のランダム化および準ランダム化試験。具体的な除外項目は、3週間未満の肩の痛み、リウマチ性関節炎、リウマチ性多発筋痛症、頚部関連痛および骨折であった。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが、試験およびアウトカムデータをそれぞれ抽出した。標準偏差が報告されなかった連続アウトカム指標については、生データから算出したか、平均の標準誤差から換算した。これらのいずれも報告されなかった場合は、著者に連絡をとった。結果が中央値および範囲として報告された場合、試験はメタアナリシスには含めず、Additional Tablesに示された。試験のエンドポイント集団および介入が均質であった場合、効果量を計算し、プール解析に組み入れた。回旋腱板炎、癒着性関節包炎、回旋筋腱板の全層性断裂および混合診断の結果を別々に提示し、肩の全障害に対する鍼治療の効果を示すために、可能であればメタアナリシスに組み入れた。

主な結果: 

さまざまな方法論的品質の9件の試験が、選択基準を満たした。すべての試験において、介入についての記述が少なかった。種々の試験において、さまざまなプラセボが用いられた。2件の試験は、回旋腱板炎に対する鍼治療の短期的な成功(介入後)を評価し、メタアナリシスに組み入れることができた。プラセボと比較した場合、鍼治療に伴う短期的な改善に有意差は認められなかったが、サンプルサイズが小さいため、これは第2種の過誤で説明できる可能性がある。鍼治療は、4週目においてConstant Murley Score(肩機能の指標)で改善を示し、プラセボよりも利益があった(WMD 17.3(7.79、26.81))。しかし、4カ月までは、鍼治療とプラセボの差は依然として統計的に有意であったが、もはや臨床的に有意とは言えなかった(WMD 3.53(0.74,6.32))。Constant Murley Scoreは100点満点で、3.53点の変化は実質的に利益があるとは言えない。小規模なパイロット研究の結果は、伝統的な鍼治療および耳鍼+モビライゼーションがモビライゼーション単独をいくらか上回る利益を示した。プラセボと比較して、鍼治療に関連した有害事象に差はなかったが、1件の試験のみが評価していた。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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