体外受精(IVF)および顕微授精(ICSI)を含む不妊治療における刺激周期のモニタリング

レビューの論点:IVFやICSIを行う際に、調節卵巣刺激を受ける女性に対して、血中エストラジオール値の検査を追加することなく、超音波検査だけを使用しても安全にモニタリングすることができるか?IVFやICSIの一環として調節卵巣刺激を受けている女性に対して、経腟超音波(TVUS)だけでモニターすることと、従来のようにTVUSと血中ホルモン(エストラジオール)値を組み合わせてモニターすることに関するエビデンスを検討した。

背景: IVFやICSIなどの生殖補助医療では、調節卵巣刺激と呼ばれるプロセスが行われる。卵巣を人工的に刺激して卵胞を形成させた後、排卵(成熟した卵子の放出)を誘発して卵子を採取し、IVFやICSIで培養室内で胚を作るのに使用する。従来、排卵誘発前に調節卵巣刺激を受けている女性は、TVUSと血中エストラジオールというホルモン値の測定によりモニターされてきた。モニタリングの目的は、(ヒト絨毛性ゴナドトロピンまたは黄体形成ホルモンの投与による)排卵誘発の最適な時期を検出すること、採卵を可能にするために卵巣刺激に対して適切な反応を示しているかどうかを確認することであるが、稀に起こる重篤な状態である卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症するリスクがある女性を特定することも重要な目的である。TVUSによるモニタリングだけによる簡略化されたプロトコルでIVFやICSIを行うことで、不必要な不安や運用コストを減らせる可能性が示唆されている。

研究の特徴:英国、フランス、スペイン、イスラエル、米国で実施された、合計781人の女性を含む6件のランダム化比較試験を対象とした。IVFやICSIのために調節卵巣刺激を受ける女性を対象に、TVUSのみによるモニタリングとTVUSおよび血清エストラジオール濃度によるモニタリングを比較した。エビデンスは2020年3月現在のものである。

主要な結果:6件の研究のうち、我々の主要なアウトカム項目である出生率を報告したものはなかった。女性1人あたりの妊娠率を報告しているのは6件中4件のみで、TVUSのみのモニタリングとTVUSおよびエストラジオール測定によるモニタリングが女性1人あたりの臨床妊娠率に与える影響は不明である。今回の結果から、TVUSとエストラジオール測定を用いたモニタリングで臨床的に妊娠する確率が36%の女性において、TVUSのみを用いた場合の臨床的妊娠率は31%~46%であることが示唆された。

女性1人あたりの平均採卵数に影響があるかどうかは不明である。

TVUSのみのモニタリングとTVUSおよびエストラジオール測定によるモニタリングがOHSSの発生率に影響するかどうかは不明である。エビデンスによると、TVUSとエストラジオール測定によるモニタリングでOHSSの可能性が4%の女性の場合、TVUSのみでモニタリングした場合のOHSS率は2~8%になると考えられる。この結果を報告した2件の研究では、治療周期のキャンセル(訳者注:採卵を断念すること)率は両群で同程度であった。

エビデンスの質:エビデンスの質は低度であった。限界としては、ランダム化の方法、割付隠しや盲検化に関する記述が不明確であることや、治療プロトコルの違いによる不精確さやバイアスの可能性が挙げられる。質評価の妨げとなったのは、方法論の記述が欠けていた研究がいくつかあったことである。2件の研究は製薬会社からの資金提供を報告しているが、残りの4件の研究は資金源を報告していなかった。

訳注: 

《実施組織》 杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2021.12.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005289.pub4》

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