HIV/AIDS患者における医療目的での大麻の使用

HIV/AIDS患者の食欲改善、体重増加および気分向上を目的とした大麻(マリファナ)、その有効成分またはドロナビノールなどの合成薬の使用が推奨されている。ドロナビノールは、一部の国においてAIDSに関連した食欲不振の治療薬として登録されている。しかし、HIV/AIDS患者に対する有効性を示すエビデンス(証拠)は限定的であり、一部のエビデンスはバイアス(偏り)の影響を受けている可能性がある。これらの研究は少数の参加者を対象に実施され、短期的な効果に焦点がおかれている。長期的な効果に関するデータや生存率に対する有益性を示すデータが不足している。現時点では、大麻または合成カンナビノイドに関する現行の規制状況に大幅な修正を加えることを正当化するためのデータが不十分である。

著者の結論: 

ドロナビノールは少なくとも一部の医薬品規制当局でAIDSに関連した食欲不振の治療に承認されており、法的にもHIV/AIDS患者によるマリファナの「医療上の」使用が許可されているにもかかわらず、このような条件下での大麻およびカンナビノイドの有効性および安全性に関するエビデンスが不足している。これまでに実施された研究は短期間で患者数が少なく、短期有効性に主眼がおかれている。AIDSに関連する罹病率および死亡率に対する持続性効果ならびに抗レトロウイルス療法を受けている患者に対する安全性を示す長期データは未だ示されていない。入手可能なエビデンスが医薬品規則の施行に関する広範な再考を正当化するのに十分であるかどうかは、依然として不明である。

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背景: 

大麻(マリファナ)またはその向精神成分であるデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の医薬品としての使用について、さまざまな場面で活発な議論が交わされている。大麻の吸入または摂取は、天然型であれ人工型(製薬会社で製造されたドロナビノールなどの医薬品)であれ、AIDS患者の食欲を増進させ、体重増加や気分向上をもたらし、QOLを改善すると主張されている。

目的: 

本レビューの目的は、大麻(天然型または人工製造型)を吸入または摂取した場合、HIV患者の罹病率または死亡率が低下するかどうかを評価することであった。

検索戦略: 

Cochrane HIV/AIDS Review Groupの検索戦略にもとづいて2012年7月までの検索を実施した。検索したデータベースはCENTRAL/CCTR、MEDLINEおよびEMBASEであった。さらに、必要に応じて学術誌、論文の参考文献リストおよび学会抄録集を検索した。

選択基準: 

本レビューでは、HIVまたはAIDSの成人を対象に、病院内、外来診療所または在宅ケアの条件下で大麻のさまざまな介入、型および投与経路をプラセボまたは既知の有効な治療法と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。HIV患者またはAIDS患者を対象に、種々の型の大麻を介入に使用した準ランダム化試験も組み入れた。 適

データ収集と分析: 

格と判断された研究のデータを2名の研究者が抽出し、標準化されたデータ抽出法を用いて独立してコード化した。次にRevMan 5.0を用いてデータを解析した。メタアナリシスは実施しなかった。

主な結果: 

本レビューでは、8件の論文に報告された総計7件の関連研究を対象とした。いずれもRCTで、このうち4件は平行群間デザインを、2件は被験者内ランダム化デザインを、2件はクロスオーバーデザインを採用していた。いずれの研究もきわめて短期で、研究期間は21日から84日であった。適切なシーケンス生成および割りつけのコンシールメント(隠蔵化)がなされていた論文は4件(実際には3件)のみであった。向精神作用が試験参加者、特に当該薬物の使用歴を有する参加者によってすぐに認識されるおそれがあったため、大麻および即効性カンナビノイドの使用の盲検化は非常に困難であった。ドロナビノールの盲検化は比較的容易であると予測された。アウトカム評価尺度はさまざまで、体重の変化、体脂肪の変化(全体重に占める割合で評価)、食欲の変化(視覚的アナログ尺度で評価)、カロリー摂取量の変化(kcals/kg/24時間)、悪心および嘔吐の変化(視覚的アナログ尺度で評価)、全身状態の変化(カルノフスキー尺度または記憶および機敏さに関する特異的検査によって評価)、気分の変化(視覚的アナログ尺度で評価)などであった。現時点では、罹病率および死亡率に対する顕著な効果を示すエビデンスは限られている。高活性抗レトロウイルス療法(HAART)の施行前に実施された1件の比較的小規模な試験(n=139、このうち88例のみが評価可能であった)のデータのみが、ドロナビノール投与患者では体重が2 kg以上増加する可能性が2倍である(RR 2.09)ことを示していたが、この評価の信頼区間(95%CI 0.72〜6.06)には1が含まれていた。ドロナビノール群の平均体重増加量はわずか0.1kgであったのに対し、プラセボ群での体重減少量は0.4kgであった。一方、本研究では参加者のランダム化は施設ごとに行われたが、シーケンス生成および割りつけのコンシールメント(隠蔵化)の質は評価することができなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.31]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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