成人の慢性歯周病(歯周炎)に対する、すべての歯(全顎)の24時間以内の治療

背景

長く続く歯周病(歯周炎)は、歯の周りの軟組織(歯肉)や骨に損傷を与え、歯を失うこともある一般的な慢性炎症性疾患である。手術以外の治療法で、疾患を止めたりコントロールをする。これらは、「歯肉縁下インスツルメンテーション」、つまり、感染した歯根面から歯肉の下にある細菌を機械的に除去することを基本とする。

従来の治療は、数週間かけて2~4回に分けて行われ、毎回、口の中の異なる部分(または「象限(訳注:分割した場所)」)をスケーリングする。これは従来、「スケーリング(訳注:歯の表面の歯石などの汚れを除去すること)とルートプレーニング(訳注:歯の根本の表面の汚れを除去こと)」(SRP)として知られている。また、24時間以内に1~2回のセッションで口全体を治療する方法もある(全顎スケーリング(FMS)と呼ばれる)。全顎スケーリングに消毒薬(例:クロルヘキシジン)を加えた場合、この介入は「全顎除菌」(FMD)と言う。全顎アプローチの理論的根拠は、すでに治療を受けた箇所での再感染の可能性を減らすことができるかもしれないということである。

レビューの論点

本レビューは、コクランオーラヘルスグループで行われたもので、2008年に発表されたレビューの2度目の更新である。24時間以内の全顎治療(FMS、FMD)の効果を数週間にわたる従来の治療と比較し、更にFMSとFMDの間に差があるかどうかを評価する。エビデンスは2021年6月現在までのものである。

研究の特徴

対象とした研究は、歯肉縁下インスツルメンテーションと全顎アプローチを評価した無作為化比較試験(2つ以上の治療群のいずれかに無作為に振り分ける臨床試験)で、少なくとも3ヶ月のモニタリング(経過観察)が行われたものであった。FMS、FMDともに従来の 口の中を分割して処置を実施するSRP(コントロール群)と比較した。参加者は慢性歯周炎と臨床診断されており、侵襲性歯周炎、全身性疾患(体の他の部位に影響するもの)、抗生物質を服用している患者を対象にした研究は除外した。

今回の更新では、新たに9件の試験を組み入れ、前回のレビューで組み入れられた1件の試験は除外した。合計で944人を対象とした20件の研究がレビューに含まれる。

主な結果

FMSとFMDの治療効果はわずかであり、歯周病治療への明確な影響はない。どちらの治療法も、1回の治療で口の4分の1をスケーリングおよびルートプレーニングする通常の治療法より優れていなかった。

最も重要な害として確認されたものは、FMSまたはFMD治療後の体温上昇であり、13件中3件で報告された。

実際に、どの治療を選択するかは、患者と歯科医師の好みと利便性に基づいて決定される。

エビデンスの確実性

研究数や参加者が少ないことや、研究デザインに限界があることから、ほとんどの比較や結果に対する確信度は低い。9件の研究が追加されても、前回のレビュー結果に変化はなかった。

訳注: 

《実施組織》 屋島佳典 翻訳、堺琴美 監訳[2022.7.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004622.pub4》

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