癌患者の治療で、化学療法または放射線療法、もしくはその両方に追加投与する胸腺ペプチドについて。

免疫系は癌細胞に対する人体の自己防御において重要な役割を果たす。胸腺は免疫系において中心的な役割を果たし、リンパ球の一つであるT細胞を修飾する。胸腺ペプチドの研究で免疫系に対するさまざまな効果が示されている。2つのグループの胸腺ペプチドが治療目的での使用が可能であり、動物(主に子牛)より摘出し精製された胸腺および合成された胸腺ペプチドがある。本レビューは胸腺ペプチドにより標準化学療法または放射線療法、もしくは併用投与に対する奏効および忍容性が改善するかという疑問に答えることを目的としている。更に、ペプチドが病勢進行や再発を抑制または減少させ、また癌患者の生存を延長し生活の質 を改善するかという疑問がある。

本レビューでは、合計2736名の成人癌患者で実施された26件の臨床研究から得られたエビデンスについて検討した。研究の多くは規模が小さくまた中程度の品質であった。10年以内に実施された研究では3件のみであった。チモシンα1は合成ペプチド であり、化学療法に追加で用いた場合、転移性黒色腫患者の治療選択肢としての有望性が示されている。化学療法および放射線療法中は、低白血球数および感染症のため重度の問題が生じる。こうした問題は精製された胸腺抽出物を用いて軽減された。但し、精製された胸腺抽出物を用いるには、抽出物を定期的に患者で使用する前に、徹底して調査するべきである。得られた知見は決定的ではないことから、注意が必要である。総合的に、胸腺ペプチドは忍容性が良好であると考えられる。

著者の結論: 

全体的に、pTEを抗腫瘍治療に追加することで死亡リスクまたは病勢進行を減少させるというエビデンス、またはpTEが抗腫瘍治療に対する奏効率を改善するというエビデンスのいずれも認めらなかった。チモシンα1に関しては、死亡リスクの減少およびDFS改善の傾向が認められた。pTEは化学療法または放射線療法を受ける患者で重度感染症の合併症リスクを軽減するという予備のエビデンスが得られている。

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背景: 

精製された胸腺抽出物(pTE)および 合成胸腺ペプチド(sTP)は、腫瘍細胞増殖に対抗し、また疾患および抗腫瘍療法により誘発された免疫抑制状態のために生じる感染症に対して抵抗するために癌患者の免疫系を増強すると考えられている。

目的: 

癌の管理に関してpTEおよびsTPの有効性を評価する。

検索戦略: 

CENTRAL(コクラン・ライブラリ、2010年3号)、MEDLINE、EMBASE、AMED、BIOETHICSLINE、BIOSIS、CATLINE、CISCOM、HEALTHSTAR、HTA、SOMEDおよび LILACS(2010年2月まで)を検索した。

選択基準: 

成人癌患者を対象に、pTEまたはsTPに化学療法または放射線療法あるいはその両方を追加した場合と、同じレジメンでプラセボを用いた場合、あるいは追加投与を行わない場合とを比較したランダム化試験。

データ収集と分析: 

2名の著者がそれぞれ公表されている研究からデータを抽出した。全生存率(OS)、無病生存率(DFS)、腫瘍奏効(TR)率、および抗腫瘍治療による有害作用(AE)発現頻度からオッズ比(OR)を求めた。メタアナリシスにランダム効果モデルを用いた。

主な結果: 

26件の研究(患者2736名)が特定された。20件の研究ではpTE(チモスチムリンまたはチモシン分画5)および 5件ではsTP(チモペンチンまたはチモシンα<16>1</16>)についてそれぞれ調査した。21件の研究ではOSについて、6件ではDFSについて、14件ではTRについて、9件ではAEについて、また10件ではpTEおよびsTPの安全性について報告された。pTEを追加した場合でもOS(RR:1.00、95% CI:0.79~1.25)、DFS (RR:0.97、95% CI:0.82~1.16)、またはTR (RR:1.07、95% CI:0.92~1.25)に対する有効性は認められなかった。これらの結果はすべて、中等度から高度の異質性が認められた。チモシンα1については、統合したOS のRR が1.21 (95% CI:0.94~1.56、P = 0.14)、異質性は低く、またDFSのRRは3.37 (95% CI:0.66~17.30、P = 0.15)、異質性は中等度であった。pTEは重度の感染症の合併症リスクを軽減した(RR:0.54、95% CI:0.38~0.78、P = 0.0008、I² = 0%)。チモスチムリン投与患者での重度の好中球減少症に関するRR は0.55 (95% CI:0.25~1.23、 P = 0.15)であった。pTEおよびsTPの忍容性は良好であった。研究の殆どで少なくとも中等度のバイアスリスクが認められた。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.19]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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