不妊症のカップルに対する、子宮内人工授精の実施回数の比較(1回または2回)

レビューの論点:不妊症のカップル(少なくとも1年間妊娠を試みてきたカップル)を対象に、子宮内人工授精(IUI)を1回実施するのと比較して2回実施する場合の効果に関するエビデンスを検討した。

背景:1年以上妊娠を試みているカップルに対する一般的な不妊治療として、精子を直接子宮内に入れて卵子に近づけるという手法がとられる。この手法に排卵誘発剤を併用し、排卵を促すことがある(卵巣刺激を併用したIUI)。人工授精は、体外受精(卵子と精子を体外で結合させる方法)などの治療法に比べて、ストレスや侵襲性、費用が少なくて済むのが特徴である。男性パートナーが原因の不妊症や、不妊の原因がわからない場合に実施されることが多い。通常、IUIは1回の月経周期で1回だけ実施されるが、2回実施されることもある。IUIを2回実施すると1回だけの実施よりも妊娠率が高いかどうかは、臨床試験によって結論が異なる。

研究の特徴:2,751人の女性を対象に、IUIを1回または2回実施する群を比較した9件のランダム化比較試験(2つ以上の治療群のいずれかに無作為に振り分けられる臨床研究)を特定した。エビデンスは2020年7月現在のものである。

主な結果 主要な解析によると、これはエビデンスの質は低度と評価されたが、IUIを2回実施してもIUI1回実施と比較して出生率の改善や流産の減少につながるかは不明である。エビデンスによると、1回のIUIによる出生率が16%であれば、IUIを2回実施することによる出生率は12%~27%になると考えられる。また、1回のIUIでの流産の可能性が1.5%であれば、IUIを2回実施した場合の可能性は1.5%~5%になると考えられる。最も質の高い試験だけで解析を行っても、どちらの評価項目についても同様の結果が得られた。IUIを2回実施すると、妊娠率は上がるかもしれない。しかしこの結果は、エビデンスの質が低度のため、慎重に解釈する必要がある。エビデンスによると、1回のIUIでの妊娠の可能性が14%であれば、IUIを2回実施するとその可能性が16%~23%になると考えられる。しかしながら、質の高い試験だけで解析したところ、IUIの2回実施による肯定的な効果は認められなくなった。

IUIを2回実施すると1回だけIUIを実施した場合に比べて、多胎妊娠(双子や三つ子など)や異所性妊娠(受精卵が子宮の外に着床すること、多くは卵巣と子宮をつなぐ卵管内に着床する)を減少させるかどうかは不明である。エビデンスによると、1回のIUIによる多胎妊娠の可能性が0.7%であれば、2回のIUIによる可能性は0.7%~3.2%になると考えられる。また、1回のIUIによる異所性妊娠の可能性は0.8%なのに対し、2回IUIを実施する場合の可能性は0.3%~32%と考えられる。

エビデンスの質:エビデンスの質は低度であった。エビデンスの主な限界は、バイアスのリスクが不明瞭であること、組み込んだ試験の規模が小さいこと、結果の報告が不明確であることだった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2022.02.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003854.pub2》

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