膝変形性関節症に対する経皮的電気刺激

本稿はコクラン・レビューの要約であり、膝変形性関節症に対する経皮的電気刺激の効果について、研究で分かったことを記載する。

本レビューでは変形性関節症の人について以下を示す。

・エビデンスの質が極めて低いため、経皮的電気刺激が痛みや膝の動きに影響するのかは不明である。・経皮的電気刺激には副作用がないと考えられる。副作用や合併症に関する正確な情報が得られないこともしばしばあった。まれだが重篤な副作用については、特にそうであった。

変形性関節症や経皮的電気刺激とは何か?

変形性関節症(OA)は膝などの関節の疾患である。関節の軟骨が減ると、骨は損傷を修復しようとして成長する。しかし、良くなるどころか、骨が異常に成長してますます悪くなってしまう。例えば、骨がいびつになり、関節が痛んで不安定になることがある。これは身体機能や膝の動きに影響する場合がある。

TENSなどの経皮的電気刺激は、通常、皮膚に電流を流して痛みを緩和するものである。一般的に、経皮的電気刺激装置は小型の電池式装置で、2個の電極を装着し、電流を流す。通常、装置の2個の電極を痛みがある部位の皮膚に装着する。医師や理学療法士が装置の使い方を教えるが、ほとんどの装置が自宅で使用できる。

変形性関節症の人において、経皮的電気刺激から4週後までにみられる最良の推定値は、以下のとおりである。

痛み

・電気刺激を使用した人では、使用から4週後の痛みについて、0(痛みなし)から10(激痛)の尺度で約2の改善がみられた。

・偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人では、使用から4週後の痛みについて、0(痛みなし)から10(激痛)の尺度で約2の改善がみられた。

・電気刺激を使用してもこれ以上の平均値の改善はみられず、偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人と比較して、電気刺激による治療に反応した人数は同程度であった(差は0%)。

身体機能

・電気刺激を使用した人では、使用から4週後の身体機能について、0(障害なし)から10(著しい障害)の尺度で約2の改善がみられた。

・偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人では、使用から4週後の身体機能について、0(障害なし)から10(著しい障害)の尺度で約1の改善がみられた。

・偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人と比較して、電気刺激を使用した人では膝の機能改善が1大きかった。

別の方法による同類のエビデンス:

・電気刺激による治療に反応したのは100例中29例であった(29%)。

・偽の電気刺激装置による治療や通常治療に反応したのは100例中26例であった(26%)。

・偽の電気刺激装置による治療や通常治療と比較して、電気刺激治療では反応例が3例多かった(差は3%)。

副作用による試験からの脱落または中止

・電気刺激を使用した人で、副作用により試験から脱落したり試験を中止した人は100例中2例であった(2%)。

・偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人で、副作用により試験から脱落した人は100例中2例であった(2%)。

・副作用による試験からの脱落症例数に差はなかった(差は0%)。この結果は偶然の可能性がある。

副作用

・電気刺激を使用した人では、100例中15例に副作用がみられた(15%)。

・偽の電気刺激装置を使用した人や通常治療のみを行った人では、100例中15例に副作用がみられた(15%)。

・副作用が生じた人数に差はなかった(差は0%)。この結果は偶然の可能性がある。

著者の結論: 

今回の更新では、疼痛緩和に対する経皮的電気刺激の有効性を確認できなかった。最新のシステマティックレビューは、質に問題のある小規模試験しかないため、決定的ではない。十分な検出力のある適切にデザインされた試験が必要である。

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背景: 

変形性関節症はもっとも多い関節疾患で、高齢者の疼痛や身体障害の主な原因となっている。経皮電気神経刺激(TENS)、干渉波刺激、およびパルス電気刺激は、複数の疾患で生じる急性・慢性疼痛のコントロールに広く用いられているが、有効性に関するエビデンスが不十分だとみなす政策立案者もいる。

目的: 

膝関節炎患者において、有害事象による中止例や疼痛に対する影響について、経皮的電気刺激と偽介入または非介入を比較すること。

検索戦略: 

CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、CINAHL、およびPEDroを2008年8月5日までについて再検索し、会議の議事録や参考文献リストをチェックし、著者に連絡を取った。

選択基準: 

膝変形性関節症患者を対象として、経皮的な電気刺激と偽介入または非介入を比較したランダム化および準ランダム化比較試験。

データ収集と分析: 

標準的な形式でデータを抽出し、不足しているアウトカムの情報を得るために治験責任医師に連絡した。主要アウトカムは疼痛および有害事象による中止例とした。疼痛については標準化平均差(SMD)を、安全性アウトカムについては相対リスクを算出し、逆分散変量効果メタアナリシスを使用した。疼痛の解析は、説明変数として標準誤差を用いたメタ回帰分析で予測した推定値に基づいた。

主な結果: 

今回の更新では14件の試験を新たに同定し、合計で813例を対象とした18件の小規模試験を選択した。11件の試験がTENS、4件が干渉波刺激、1件がTENSと干渉波刺激、2件がパルス電気刺激を使用した。方法論的な質や報告に関する質は低く、試験間の異質性が高かった(I2 = 80%)。疼痛に関するファンネルプロットは非対称であった(P < 0.001)。最大規模の試験と同規模の試験では、疼痛強度に関するSMDの予測値が -0.07(95% CI -0.46~0.32)で、電気刺激とコントロールにおける疼痛スコアの差(10cmの視覚的アナログ尺度で0.2 cm)に相当した。電気刺激の種類によってSMDが異なることを示すエビデンスはほとんどなかった(P = 0.94)。有害事象による中止や脱落の相対リスクは0.97(95% CI 0.2~6.0)であった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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