関節リウマチ患者に対するメトトレキサートの副作用軽減のための葉酸とフォリン酸

コクラン共同計画の研究員が、関節リウマチのためメトトレキサートを服用中の患者に対する葉酸またはフォリン酸の効果についてレビューを実施した。本レビューには、関連性のある研究すべてを検索した結果、参加者計624例を対象とした6件の研究を選択した。それらの試験による知見を以下に要約する。

メトトレキサート(MTX)服用中の関節リウマチの患者は:

-葉酸またはフォリン酸のいずれかを摂取することで、MTXによる悪心や腹痛などの副作用が改善すると考えられる。

-葉酸またはフォリン酸のいずれかを摂取することで、肝機能検査や血液検査で異常値を呈する確率が低減すると考えられる。

-葉酸またはフォリン酸のいずれかの摂取は、MTXによる治療の継続に役立つと考えられる。

-葉酸またはフォリン酸のいずれかを摂取することで、口内炎などいくつかのMTXの副作用を改善することもある。

-MTXと併用して葉酸またはフォリン酸のいずれかを摂取することにより、好中球減少症(白血球産生障害)を予防できるか否かを確定することはできない。

-MTXと葉酸またはフォリン酸のいずれかの併用は、関節リウマチに対するMTXの治療効果に影響を及ぼさないと考えられる。

葉酸またはフォリン酸とは?なぜMTXと併用するのか?

葉酸およびフォリン酸は、ビタミンB9の一種である。ヒトの生体は、細胞分裂や増殖、新しい赤血球の産生をはじめとする多くの機能を実行するため葉酸を必要とする。フォリン酸は、葉酸とは化学的に異なるが、両者とも同じように作用する。葉酸またはフォリン酸が不足している状態を、葉酸欠乏症と呼ぶ。MTX(関節リウマチの治療に一般的に処方される薬剤)は、葉酸の一部の働きを阻害する作用がある。葉酸欠乏症は、口内炎や、悪心や腹痛をはじめとする胃の障害、肝臓障害、血球産生障害などの副作用を引き起こす。これらの副作用は、時としてMTX服用を中止する(治療の中止)程度まで悪化する。

MTX服用中に葉酸またはフォリン酸を摂取する患者において予測される最大の効果

悪心、嘔吐、または腹痛など胃の障害:

-MTXと葉酸またはフォリン酸の併用開始後6カ月から12カ月までに、悪心などの胃の障害が認められた患者はMTX単独と比較して100例中9例少なかった(絶対改善度9.0%)。

-関節リウマチのためMTXを単独服用した場合に、100名中35名に悪心など胃の障害が認められた。

-葉酸またはフォリン酸とMTXを併用した場合には、100名中26名に悪心など胃の障害が認められた。

肝臓障害(肝機能血液検査の異常値により判断):

-MTXと葉酸またはフォリン酸の併用開始後6カ月から12カ月までに、肝臓障害が認められた患者はMTX単独と比較して100例中16例少なかった(絶対改善度16.0%)。

-関節リウマチのためMTXを単独服用した場合に、100名中21名に肝機能血液検査値の異常が認められた。

-葉酸またはフォリン酸とMTXを併用した場合には、100名中5名に肝機能血液検査値の異常が認められた。

MTXによる治療を継続できる:

-葉酸またはフォリン酸を併用した場合、理由の如何を問わず試験から脱落した患者は100例中15例少なかった(絶対改善度15.2%)。

-プラセボ(葉酸またはフォリン酸の偽薬)とMTXを併用した100名中25名が、理由の如何を問わず試験から脱落した。

-葉酸またはフォリン酸とMTXを併用した100名中10名が、理由の如何を問わず試験から脱落した。

口内炎または口腔内潰瘍:

-MTXと葉酸またはフォリン酸を併用した場合、口内炎が発現したのはMTX単独と比較して100例中6例少なかった(絶対改善度6.2%)。

-プラセボ(葉酸の偽薬)とMTXを併用した100名中2名に、口内炎または口腔内潰瘍が発現した。

-葉酸またはフォリン酸とMTXを併用した100名中16名に、口内炎または口腔内潰瘍が発現した。

著者の結論: 

結果は、MTXによる治療中、関節リウマチ患者に対する葉酸あるいはフォリン酸のいずれかの補充による予防効果を支持している。

消化管の副作用や肝機能障害(血清トランスアミナーゼ値の上昇)の発現率の有意な減少、ならびに理由の如何を問わずMTXによる治療の中止件数が有意に減少し、臨床的に意義があると考えられた。口内炎の軽減傾向が認められたものの、統計学的有意性には達しなかった。

低用量葉酸またはフォリン酸とバイアスのリスク評価の更新とに焦点を当てた本更新レビューの目的は、メトトレキサート投与中の関節リウマチ患者に対する葉酸補充の有益性に関し、より正確で臨床的関連性のある評価を行うことであった。

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背景: 

メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ(RA)の治療の際、第一選択薬として用いられる疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)である。薬理学的には、葉酸代謝に拮抗作用を及ぼすことから代謝拮抗薬に分類される。MTXによる治療を受けた患者の多くに、粘膜、胃腸、肝または血液系の副作用が発現する。 MTXによる治療中に葉酸またはフォリン酸を補充することで、これらの副作用を改善できる可能性がある。

目的: 

関節リウマチに対するMTX療法中に葉酸またはフォリン酸の補充を実施した試験を同定する。また、(a)MTXによる粘膜、胃腸(GI)、肝および血液系の副作用を軽減する場合の葉酸およびフォリン酸の有益性および有害性と、(b)葉酸またはフォリン酸の補充がMTXの効果に何らかの影響を及ぼすか否かを評価すること。

検索戦略: 

最初に、1966年1月から1999年6月までMEDLINE検索を実施した。本レビューの更新中、追加されたデータベースを検索した。1999年から2012年3月2日までの、関節リウマチに対する葉酸またはフォリン酸に関する試験をすべて検索するよう設計した高精度検索戦略を用いた。

選択基準: 

関節リウマチ成人患者に対し葉酸補充と併用してMTX(投与量25 mg/週以下)による治療を行った、ランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験(RCT)をすべて選択した。本更新レビューでは、「低用量」の葉酸またはフォリン酸(投与量は7 mg/週以下から開始)を用いた試験のみを選択した。

データ収集と分析: 

データは試験から抽出し、対象とした試験についてはそれぞれ、予め設定した基準を用いてバイアスのリスクを評価した。

主な結果: 

患者624例を対象とした6件の試験が選択基準に合致した。ほとんどの試験は、主要な領域でバイアスのリスクが「低い」、もしくは「不明」であった。各アウトカムに関するエビデンスの質はGRADEシステムを用いて評価し、「低」に格付けした血液学的副作用を除き、「中」と格付けした。葉酸とフォリン酸の研究を統合した場合も含め、試験間に有意な異質性は認められなかった。

関節リウマチに対するMTX療法中に外因性葉酸(葉酸またはフォリン酸のいずれか)の形状を問わず補充した患者では、悪心や嘔吐、腹痛など消化管(胃腸)の副作用発現率に、26%の相対リスクの低下(絶対リスクでは9%の低下)が認められた(RR:0.74、95%信頼区間[CI]:0.59~0.92、p=0.008)。葉酸およびフォリン酸は、MTXに起因する血清トランスアミナーゼ値の異常上昇に対しても予防効果があると考えられ、76.9%の相対リスクの低下(絶対リスクでは16%の低下)が認められた(RR:0.23、95%CI:0.15~0.34、p<0.00001)。また、理由の如何を問わずMTX投与を中止する患者数も減少した(相対リスクが60.8%低下[絶対リスクは15.2%低下]、RR:0.39、95%CI:0.28~0.53、p<0.00001)。

口内炎あるいは口腔内のびらんの発現に対する葉酸またはフォリン酸の効果を分析したところ、リスク低下傾向を示すものの、その結果は統計学的に有意ではなかった(RR:0.72、95%CI:0.49~1.06)。

選択した試験における症例数が少なかったこと、また本アウトカムの報告が不十分であったことから、MTXによる血液学的副作用に対する葉酸またはフォリン酸の効果に関し、意義のある結論は出せなかった。

RA(圧痛や腫脹のある関節の数といったRA疾患活動性のパラメーターまたは医師による総合評価スコアから判断)の治療におけるMTXの有効性に対し、葉酸あるいはフォリン酸のいずれかを補充することによって、統計学的に有意な効果がもたらされるとは考えられない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.22] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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