固体臓器移植患者における術後部位感染症予防のための周術期抗菌薬投与の有効性に関する検討

論点
臓器移植を受けている人は、複雑な手術や拒絶反応抑制薬による感染に対する体の免疫防御力の低下により、感染症にかかるリスクが高まる。移植時に感染の原因となる細菌は、その人の体や移植された臓器、環境に由来する。移植された臓器の種類や移植が行われた時代にもよるが、移植手術の3%~53%で手術部位感染症が発生すると報告されている。手術部位感染症とは、手術をした部位で手術後に起こる感染症のことを指す。これは、創傷の発赤および/または排膿を起こす可能性があり、抗菌薬で治療されない場合、またはさらなる手術を受けない場合、血流感染、体内の他の臓器(移植臓器を含む)の感染、または死に至る恐れがある。手術部位の感染を避けることで、患者や移植の生存率の向上に寄与する。移植手術の時期に抗菌薬を与えることで、手術部位の感染を防ぐことができるかもしれないが、系統的に行われた研究はなかった。しかし、抗菌薬は薬剤耐性菌の発生や下痢などの副作用を引き起こし、またお金がかかることが知られているので、抗菌薬を与えることも害のリスクがないわけではない。

実施したこと
2020年4月までの文献をレビューしたところ、移植手術時に抗菌薬の投与が臓器移植患者の手術部位感染を予防するかどうかを評価した8件の研究(ランダム化された718名の参加者)が見つかった。

何がわかったか?
抗菌薬を使用しない場合と比較すると、エビデンスの確実性は非常に低いと評価されているため、抗菌薬が手術部位感染症の発生を減少させるかどうかは不明である。短時間作用型の抗菌薬と比較した場合、エビデンスの確実性は非常に低いと評価されているため、長時間作用型の抗菌薬が手術部位感染症の発生を減少させるかどうかは不明である。研究の規模が小さいこと、追跡期間が短いこと、方法論の質が低いこと、アウトカムの報告に一貫性がないことなどが研究のリミテーションであった。そのため、臓器移植を受ける人の手術部位感染を予防するための抗菌薬の効果は不明である。

結論
固形臓器移植を受けた患者の手術部位感染予防のための抗菌薬投与が有益かどうかは不明である。抗菌薬の効果を正確に推定するためのデータが不足している。抗菌薬の使用対プラセボまたは抗菌薬の単回投与対短期間投与のランダム化比較試験が必要である。

訳注: 

《実施組織》 季律、阪野正大 翻訳[2020.08.20] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013209.pub2》

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