脳性麻痺予防のための生後1ヶ月未満の赤ちゃんへの介入:コクラン系統的レビューのオーバービューレビュー

論点

「脳性麻痺」とは、体を動かすことができない疾患の総称で、小児の身体障害の中で最も多い疾患である。脳性麻痺は、通常、出産前、出産中、あるいは出産後に、発達中の赤ちゃんの脳に傷がつくことが原因でおこる。脳性麻痺の原因は一つではない。多くの子どもたちの脳性麻痺の原因は明らかではないが、多くの危険因子が知られている。最大のリスク要因は、早産(妊娠37週以前の出産)である。新生児期(生後1ヵ月)のその他のリスク要因としては、出生時の長時間の酸素欠乏、脳損傷、脳卒中やてんかん発作、心臓・血管・気道・肺の障害、長時間の機械的な呼吸補助、一部の感染症、黄疸(血液中の過剰なビリルビンによって皮膚や目が黄色く変色すること)、染色体(遺伝子を保持する構造体)の異常などがある。

重要性

脳性麻痺のリスク要因や原因が異なるため、リスク要因を減らして脳性麻痺を予防するためには、異なる介入方法が必要になると考えられる。この概要は、新生児期の介入に関するコクラン系統的レビューに掲載された、脳性麻痺の予防に関するエビデンスをまとめたものである。

得られたエビデンス

2016年11月27日にエビデンスを検索し、脳性麻痺に関する何らかの情報を報告している新生児期の介入を評価した43件のコクラン・レビューを確認した。これらのレビューの質はすべて中等度から高等度であったが、脳性麻痺に関するエビデンスの質は非常に低いものから高いものまでさまざまであった。3件のレビューは出産時またはその前後に酸素不足に陥った可能性のある新生児への介入の評価、33件のレビューは早産または低出生体重児への介入の評価、7件のレビューは脳への損傷のリスクがあるその他の新生児グループ(出産時に低血糖で生まれた新生児など)への介入の評価であった。

その結果、脳性麻痺の予防に有効である介入が1つわかった。出生時またはその前後に酸素不足に陥った可能性のある新生児が、低体温(全身または脳だけの冷却)療法を行った場合、低体温療法を受けなかった赤ちゃんに比べて、脳性麻痺を発症する可能性が低かった(7件の研究;881人の赤ちゃん;高い質のエビデンス)。脳性麻痺の予防に、おそらく有効である介入が1つ判明した。機械的な呼吸補助からの離脱(人工呼吸からの抜管)が予定されているときに、メチルキサンチン(カフェイン)を投与された早産児は、プラセボを投与された児に比べて、脳性麻痺を発症する可能性が低かった(1件の研究;644人の赤ちゃん;中等度の質のエビデンス)。おそらく効果がなく、害を及ぼす可能性のある介入が1件見つかった。慢性肺疾患の予防のために早期(生後8日未満)にコルチコステロイドを投与された早産児は、プラセボを投与された児に比べて、脳性麻痺を発症する可能性が高かった(12件の研究、959人の赤ちゃん、中程度の質のエビデンス)。他の5つの介入はおそらく効果がない(脳性麻痺を予防しなかった、または脳性麻痺の可能性を高めた)ことがわかった(中程度の質のエビデンス)。他の介入に関しては、脳性麻痺を予防したのか、増加させたのか、あるいは影響を与えなかったのかを述べるのに十分なエビデンスを見つけられなかった(低いまたは非常に質の低いエビデンス)。

結論

この概要では、脳性麻痺の予防に有効な介入が1件(酸素不足の可能性がある新生児への低体温療法)、脳性麻痺の予防に有効な可能性がある介入が1件(機械的な呼吸補助から離脱する早産児へのカフェイン投与)、有害と思われる介入が1件(慢性肺疾患予防のための早産児への生後8日未満での副腎皮質ステロイド投与)、効果がないと思われる介入が5件あった。評価された他の介入については、結論を出すのに十分なエビデンスがなかった。脳性麻痺の危険因子に影響を与える可能性のある介入を評価する質の高い研究を増やして、これらの介入の影響を判定するために長期的なフォローアップを行うことが重要である。今後、長期的な追跡調査が行われれば、新生児期の脳性麻痺予防のための介入に関する情報が得られる可能性のある100以上のコクラン・レビューを確認した。

訳注: 

《実施組織》堀本佳誉、杉山伸子 翻訳[2021.07.21]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012409》

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