最初に使った薬では改善しないうつ病の治療に有効な薬はあるか?

背景

うつ病は頻度が高い問題で、しばしば抗うつ薬で治療される。しかし、抗うつ剤治療をしても良くならず、「治療抵抗性うつ病」(TRD)をもつ人も少なくない。TRDに対しては、現在の薬の用量を増やす、別の薬を追加する、または別の抗うつ薬に切り替えるなど、いくつかの異なる治療アプローチを試すことができる。

コクランのレビュアーは、これらの選択肢のうち、TRDの人にとって最良の治療法はどれかを確認するために、利用可能なエビデンスを調べた。

検索日

2018年12月に、8つの医療データベースを検索し、適した臨床試験を探した。

研究の特性

我々は、2731人が参加した10件のランダム化比較試験(RCT)を対象とした(RCTは最も頑健なエビデンスを生み出す研究方法である)。これらの試験では、3つの異なる治療戦略が検討された:

1. 別の抗うつ薬に変更する,

2. 現在の抗うつ薬治療に加えて二番目の抗うつ薬を追加する、または

3. 現在の抗うつ薬治療に加えて、抗不安薬や抗精神病薬などの異なる種類の薬剤を追加する。

現在の抗うつ薬の服用量を増やした試験は見当たらなかった。このレビューに含まれた10件の研究のうち9件は、製薬会社がスポンサーとなっていた。

主な結果

1つの小規模な研究では、現在の抗うつ薬治療を別の抗うつ薬(ミアンセリン)に変更する、または現在の治療にミアンセリンを追加する治療法について検討していた。ミアンセリンに治療法を変更することが、抑うつ症状や治療から途中で脱落する可能性に与える影響については不明であった。現在の抗うつ薬治療にミアンセリンを追加した人は、抑うつ症状が少なくなったが、脱落する可能性については明らかではなかった。

現在の抗うつ薬治療に抗うつ薬であるミルタザピンを追加しても、抑うつ症状や治療から途中で脱落する可能性にはほとんど影響はなかった。

現在の抗うつ薬治療に抗不安薬(ブスピロン)を追加した場合の抑うつ症状や治療からの脱落への効果は、現在のところ不明である。これらの知見は、1つの小規模な研究に基づくものであった。

ほとんどの研究では、現在の抗うつ薬治療に抗精神病薬(カリプラジン、クエチアピン、ジプラシドン、オランザピン)を追加した場合の効果について調べていた。それらの結果から、カリプラジンの追加は抑うつ症状をわずかに軽減すること、クエアピンの追加は抑うつ症状を軽減すること、ジプラシドンの追加はおそらく抑うつ症状をわずかに軽減することが示唆された。しかし、私たちの結果は、現在の治療にこれらの薬を加えることで、おそらく治療から脱落する可能性が高くなることも示唆していた。治療からの脱落の理由として最も多かったのは、副作用や有害事象であった。継続的な治療にオランザピンを追加することで抑うつ症状が軽減する可能性があるが、治療からの脱落への影響は不明であった(1件の小規模研究に基づく知見)。

ほぼすべての研究(9/10)では、新しい治療を開始してから6~8週間という短期的な治療効果を評価していたため、ほとんどの治療の長期的な効果は不明である。

エビデンスの質

我々は、異なるアウトカムに対して、エビデンスの質が高、中、低のいずれであるかを判断した。私たちが確認した主な限界は、調査した治療選択肢の多くのエビデンスは1つの研究から得られたものであり、これらの研究の中には参加者が少ないものもあったことである。

以下の治療に関しては、エビデンスの質が低いと評価した:

1. 現在の抗うつ剤治療から別の抗うつ薬(ミアンセリン)に切り替える;

2. 現在の抗うつ薬治療に第二の抗うつ薬(ミアンセリン)、抗不安薬(ブスピロン)、または抗精神病薬(オランザピン)を追加する。

つまり、これらの治療がうつ病の症状に効果があるのか、あるいは治療からの脱落に影響を及ぼす可能性があるのかはわからないということである。

抑うつ症状に対する継続中の抗うつ薬治療にミルタザピン(抗うつ薬)、カリプラジン(抗精神病薬)、クエチアピン(抗精神病薬)を追加することのエビデンスの質については、高いと評価した。つまり、私たちはこれらの治療戦略の効果に非常に自信を持っている。

抗精神病薬であるジプラシドンを継続中の抗うつ薬治療に追加することによる抑うつ症状への効果については、エビデンスの質を中等度と評価した。つまり、この結果は真の効果に近いかもしれないが、真の効果は我々が発見したものとは異なる可能性もあることを意味している。

継続中の抗うつ薬治療にミルタザピン(抗うつ薬)を追加することによる、治療からの脱落の可能性への影響に関しては、エビデンスの質は高いと評価した。カリプラジン、オランザピン、ジプラシドン(すべて抗精神病薬)の、治療からの脱落の可能性に関するエビデンスの質は、中等度であると評価した。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、瀬戸屋希 翻訳[2020.09.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010557.pub2》

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