アルツハイマー病の睡眠障害に対する薬物

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アルツハイマー病によって引き起こされる睡眠障害に起因する問題点は何であるのか?

アルツハイマー病に起因する認知症患者はたびたび睡眠障害を患う。睡眠障害には、夜間の睡眠時間の減少、頻繁な睡眠後の覚醒、夜間徘徊、早期覚醒、および日中の過度の睡眠が含まれる。

これらの行動は介護者に多くのストレスを引き起こし、AD患者に対する長期介護施設(ケアホーム)への早期入所に関連するであろう。これらの行動は、ケアホーム職員にとって十分管理することが困難であるおそれもある。

薬物は役立つのか?

薬物治療は多くの場合AD患者の睡眠改善を試みるために使用される。睡眠障害の原因はADに起因する脳内での変化であることもあるので、通常の睡眠薬がAD患者へ効果があるのかどうかについて明らかになっていない。そして、薬物が重大な副作用(有害性)を引き起こすかもしれないという不安がある。

このレビューの目的

このコクランレビューでは、我々はAD患者における睡眠障害治療に使用されるあらゆる薬剤の有益性および高い頻度で認められる有害性の確認を試みた。

このレビューの調査結果

我々は、AD患者における睡眠障害の治療に用いられるあらゆる薬剤を偽薬(プラセボ)と比較したすべてのランダム化試験について2013年3月31日までの医学文献を検索した。我々は3種の薬剤を検討した5件の試験(参加者313名))を確認した:メラトニン(3件)、トラゾドン(1件)およびラメルテオン(1件)。ラメルテオン試験は企業から資金を提供され、他の試験は企業以外の資金源があった。メルテオン試験に関する非常に限定的な情報が入手可能であり、それは試験依頼者から寄せられた。

メラトニン試験およびトラゾドンの試験の参加者は中程度から重症の痴呆があり、ラメルテオン試験の参加者では軽度から中程度の痴呆があった。

3件のメラトニン試験では参加者計209名を対象とした。メラトニンが睡眠を改善するというエビデンスはなかった。重篤な有害性の報告はなかった。

トラゾドン試験では参加者30名を対象とした。低用量の抗うつ鎮静剤のトラゾドン50 mgを2週間夜に投与したところ、毎晩の合計睡眠時間が平均43分増大したことが立証された。この薬剤は睡眠効率 (ベッドで眠っている時間の割合)を改善したが、睡眠後の覚醒時間、もしくは参加者が夜間に起きた回数に対する効果はなかった。重篤な有害性の報告はなかった。

ラメルテオン試験は参加者74名を対象とした。入手可能な限定的情報ではラメルテオンがプラセボより良いというエビデンスは得られなかった。ラメルテオンにより引き起こされる重篤な有害性はなかった。

これらの試験は、QOLおよび介護者への影響などの我々が注目するアウトカムの一部に関しての報告はなかった。

このレビューの不十分な点

AD患者に一般的に処方される他の睡眠薬に関する試験を検索したが、確認することができなかった。

我々は、ADにおける睡眠障害に対する薬剤についての判断の指針となる非常にわずかなエビデンスが存在するという結論に達した。投与するすべての薬物について、個々の患者においてどの程度効果があるか、そしてその危険性および副作用についての注意深い評価とともに慎重に使用されるべきである。臨床に情報を与えるためさらに多くの試験が必要であり、特にADにおける睡眠障害に通常用いられる薬剤について検討した試験が求められている。試験には副作用の注意深い評価を含めることはきわめて重要である。

著者の結論: 

我々は、ADにおける睡眠障害に対する薬物治療の指針となるエビデンスが明らかに不足していることを明らかにした。特に、ベンゾジアゼピンおよび非ベンゾジアゼピン睡眠薬のような、ADにおける睡眠障害に対して広く処方される多くの薬剤について、これらの一般的な治療に関連する有益性と危険性のバランスについての不確実性はあまりに大きいにも関わらず、RCTを確認できなかった。我々が、このレビューにおいて確認した研究から、AD患者における中程度から重症の痴呆および睡眠障害に対してメラトニンが有益であるというエビデンスは認められなかった。危険性と有益性のバランスに関してより望ましい最終的な結論に到達できるよう、より大規模な試験が必要とされるが、低用量(50 mg)のトラゾドン投与を裏付けるいくつかのエビデンスは存在する。ADによる軽度から中程度の痴呆のある患者の睡眠に対するラメルテオンのいかなる効果についてのエビデンスも得られなかった。これは、特にADにおける睡眠障害に対する一般的な臨床使用に用いられるこれらの薬剤に関する実際的な試験の必要性が高い領域である。有害作用のシステマティックな評価が非常に重要である。

アブストラクト全文を閲覧
背景: 

夜間の睡眠時間の減少、睡眠分断、夜間徘徊および日中の眠気などの睡眠障害は、概してアルツハイマー病(AD)に起因する認知症において多く認められる臨床上の障害であり、介護人の極度の苦痛、医療費の増加および施設収容に関連する。薬物治療によりしばしばこれらの障害を緩和するよう試みられるが、このような脆弱な集団において、様々な睡眠薬の有効性と有害作用に関しては大きな不確実性がある。

目的: 

関連するすべてのランダム化比較試験(RCT)の同定と解析により、アルツハイマー病患者の睡眠障害に対するあらゆる薬物治療の作用を、高い頻度で認められる有害作用も含めてプラセボと比較して評価すること。

検索方法: 

2013年3月31日、以下の用語を用いてALOIS(www.medicine.ox.ac.uk/alois)、the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group’s Specialized Registerを検索した:睡眠、 不眠症、 概日性、 過眠症、睡眠時随伴症 、傾眠、”睡眠-覚醒リズム” 、日暮れ時徴候。

選択基準: 

我々は、ベースライン時に睡眠障害が認められたアルツハイマー病患者において、ある薬剤をプラセボと比較し、睡眠改善という主要な目的を有するRCTを選択した。試験には、薬物群とプラセボ群の両方が同様に曝露する場合に限り、非薬理学的介入も含めた。

データ収集と分析: 

独立して働いている2人の著者らは、研究報告を含む研究設計、バイアスのリスクおよび研究報告から得られた結果を抜粋した。必要に応じて研究著者らから追加情報を得た。我々は治療効果の指標として平均差を使用し、可能な限り、母数効果モデルを使用した結果を統合した。

主な結果: 

我々は、メラトニン(209名の参加者、3件の研究、しかしメタアナリシスに適しているデータが得られたのは2件の研究のみであった)、トラゾドン(30名の参加者、1件の研究)およびラメルテオン(74名の参加者、1件の研究、ピア・レビューを受けた発表はない、入手できるのは非常に限定された情報である)の3種の薬剤を含めた適格なRCTを確認した。

メラトニンおよびトラゾドンの研究は中等度から重症のAD患者に関するものであり、ラメルテオン研究は軽度から中程度のAD患者に関するものであった。すべての研究において参加者には高い頻度で認められる様々な睡眠障害があった。すべての主要睡眠アウトカムはアクティグラフィを使用して測定された。メラトニンに関する1つの研究において、薬物治療を朝の高照度光療法と組み合わせた。有害作用のシステマティックな評価が得られたのは2件の研究のみであった。報告に不十分な領域があり、主としてアクティグラフィの許容範囲が狭いこと、および技術的な問題点に関連して、参加者が減少したことによるいくつかの問題点があったが、総合的には発表された研究はバイアスのリスクが低かった。ラメルテオン研究におけるバイアスのリスクは、報告が不十分なため不明であった。

速効性または徐放性のメラトニンがAD患者のいずれかの主要睡眠アウトカムを改善したというエビデンスは確認されなかった。2件の睡眠アウトカムのデータ:全夜間睡眠時間(MD 10.68分, 95% CI -16.22~37.59, 2件の研究)、日中の睡眠の夜間睡眠に対する比(MD -0.13, 95% CI -0.29~0.03, 2件の研究)を統合することができた。その他のアウトカムが、ひとつの研究にて報告された。睡眠効率、入眠後の覚醒時間もしくは夜間の覚醒回数に関して介入群と対照群間の差は認められなかった。また認知力や日常生活動作(ADL)の遂行能力においても差が認められなかった。選択された研究においてメラトニンの重篤な有害作用の報告はなかった。

2週間夜間に投与されたトラゾドン50 mgによって、全夜間睡眠時間 (MD 42.46分, 95% CI 0.9~84.0, 1件の研究)および睡眠効率(MD 8.53, 95% CI 1.9~15.1, 1件の研究)が有意に改善されたが、入眠後の覚醒時間の長さに対するあらゆる効果(MD -20.41, 95% CI -60.4~19.6, 1件の研究)もしくは夜間覚醒回数(MD -3.71, 95% CI -8.2~0.8,1件の研究)の明確なエビデンスはなかった。日中の睡眠に対する効果は認められず、認知力やADLに対する効果も認められなかった。重篤な有害作用の報告はなかった。

夜間に投与されたラメルテオン8 mgについて検討したフェーズ2試験から得られた結果は、試験依頼者の概要の中の要約という形で入手可能であった。ラメルテオンは、1週間の時点 (主要アウトカム)もしくは8週間の時点(治療終了時)における全夜間睡眠時間に対する効果を示さなかった。試験依頼者の概要では、睡眠、行動、もしくは認知のアウトカムに対してプラセボ群とのわずかな有意差が報告されたが、いずれも臨床的な重要性はないと考えられた。メラトニンの重篤な有害作用は認められなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.7.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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