がんの治療を受けている患者にとって経口抗凝固薬は安全で効果的か

要点

- がんの治療を受けている患者、特に血栓リスクの高い患者への直接経口抗凝固薬(血液をサラサラにする薬の一種)の投与は、血栓形成を抑制するという利点が大出血のリスクを上回ると考えられるため妥当である。

- しかし、別の種類の抗凝固薬であるビタミンK拮抗薬(ワルファリン)については、大出血リスクが、下肢(脚)および肺での血栓形成を抑えるという利点を上回る可能性がある。

- したがって、がんの種類や病期の異なる患者に対する抗凝固薬の効果に関して、さらに研究を進める必要がある。

抗凝固薬とは

抗凝固薬は血液の凝固の予防に役立つ薬である。血栓リスクの高い患者には、心臓発作や脳卒中などの重篤な疾患の発症リスクを低減するために、抗凝固薬が投与される場合がある。

なぜ、がん患者にとって抗凝固療法が役立つ可能性があるのか。

全身療法(血流に乗って全身をめぐり、がん細胞を発見、傷害または破壊するあらゆる薬物治療のことであり、化学療法、放射線療法、免疫療法、分子標的療法などがある)を受けているがん患者では、血栓リスクが高まる。抗凝固薬は、血栓リスクを低減させることができる一方、重篤で致死的な出血リスクを増加させる可能性もある。このため、全身療法を受けているがん患者に抗凝固薬を使用することについて、患者と医師が十分な情報に基づき決断できるよう、その有益性と有害性を理解することが重要である。

知りたかったこと

がんの治療を受けている患者に対して、経口(口から服用する)抗凝固薬の予防的投与が、予防治療を行わない場合よりも効果があるのかを知りたかった。入院せずにがんの治療を受けている患者に焦点を当てた。

抗凝固薬の下記に対する予防効果に着目した。

- 死亡

- 静脈内での血栓形成(静脈血栓塞栓症)。静脈血栓塞栓症には、下腿、大腿、または骨盤に血栓がとどまる深部静脈血栓症(DVT)、および肺に血栓がとどまる肺塞栓症がある。

- 大出血および小出血

実施したこと

がんの治療を受けていること以外に抗凝固療法が明らかに必要であることを示唆する徴候、症状、病態のないがん患者を対象に抗凝固薬の有益性と有害性を検討した研究を検索した。

検討対象とした研究の結果を比較してまとめ、研究方法や規模などの要因から、エビデンスに対する確信度を評価した。

わかったこと

がん患者計2,934人を対象とした10件の試験を対象とした。規模が最も大きかった試験の対象者数は841人、最も小さかった試験は24人であった。各試験では、下記2種類の抗凝固薬を使用していた。

- ビタミンK拮抗薬であるワルファリン、または

- 直接経口抗凝固薬(具体的には、アピキサバンおよびリバーロキサバン)

主な結果

予防治療を行わない場合と比較して、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンは、

- おそらく、6カ月時点と12カ月時点での死亡をわずかに減少させる(1,000人あたりの死亡がそれぞれ22件および29件少なかった)。

- 血栓の形成にはほとんどないし全く影響を与えない可能性がある。しかし、この結果の確信度は非常に低い。

- おそらく、12カ月時点での大出血および小出血を増加させる(1,000人あたりの大出血が107件、小出血が167件多かった)。

予防治療を行わない場合と比較して、直接経口抗凝固薬は、

- おそらく、3~6カ月時点での死亡をわずかに減少させる(1,000人あたりの死亡が11件少なかった)

- おそらく、肺および下肢の血栓をわずかに減少させる(1,000人あたりの血栓が、肺で24件、下肢で19件少なかった)。

- おそらく、大出血を増加させない(1,000人あたりの大出血が9件多かった)。

- 小出血を増加させる可能性がある(1,000人あたりの小出血が55件多かった)。

示唆されること

ビタミンK拮抗薬を使用した場合、大出血リスクが、下肢および肺での血栓リスクを低減するという利点を上回る可能性がある。

直接経口抗凝固薬を使用した場合、下肢および肺での血栓リスクを低減するという利点が、大出血リスクを上回る。

エビデンスの限界

死亡、大出血、小出血に関するエビデンスの確信度は中等度である。8件の試験では、使用された方法が結果に影響を及ぼした可能性がある。

ビタミンK拮抗薬を投与された患者での血栓に関するエビデンスは、わずか1件の試験から得られたものであるため、確信度は低い。また、この試験ではビタミンK拮抗薬を可変用量ではなく固定用量で投与していたが、この点は現在では最善とはいえない。

本レビューの更新状況

本レビューは、前回のレビューを更新したものである。本エビデンスは2020年6月現在のものである。

編集者注:これはLiving Systematic Reviewである。Living Systematic Reviewは、関連する新たなエビデンスが利用可能になった時点でレビューに組み込むことによってレビューを継続的に更新するという、系統的レビューの新たな更新手法を提案するものである。本レビューの現在の状況については、Cochrane Database of Systematic Reviewsの「What's new」セクションを参照されたい。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)八木 佐和子子 翻訳、加藤 恭郎(天理よろづ相談所病院緩和ケア科)監訳 [2021.11.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006468.pub7》

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