小児の手関節骨折(手首の骨折)に対する治療

背景と目的

手関節骨折は小児の骨折で最も一般的なものである。ほとんどが隆起骨折で、これは骨折した部分がふくれている骨折のことである。これらの軽微な骨折は良く治る。こういった骨折は、しばしば手関節のスプリント(添え木)や、肘下からのギプス固定で治療される。

もっと重症の骨折では、骨が完全に折れていて、一般的に骨折部で骨がずれている。通常、ずれた骨は徒手的に(手を使って)元の位置に戻し(「整復」という)、ギプスで固定する。多くの場合、肘を含む、肘上からのギプス固定である。手術が考慮される場合は、通常、皮膚を通して骨に鋼線(針金)を刺す(経皮的鋼線固定)。

我々の目的は、小児の手関節骨折に対する様々な治療に関する最も質の高いエビデンス(科学的根拠)を決定することである。

検索の結果

2018年5月までの医療データベースを検索し、2930人の小児を含む30件の研究を対象とした。研究に含まれていたのは女児より男児の方が多かった。また、平均年齢は8〜10歳と報告されていた。5つの主要な比較結果についてまとめた。

主要な結果

6件の研究で、隆起骨折に対する、取り外し可能なスプリントと肘下からのギプスを比較していた。1件の研究で、4週目時点での身体機能は、2名つの治療法でほとんど、もしくは全く差がなかった。スプリントもしくはギプスを変更したり、再び装着することが必要な小児はほとんどいなかった(4件の研究)。再骨折は認めなかった。スプリントもしくはギプスの装着中の痛みに、差があるかどうかは明らかでない。けがの前と同じ活動ができるようになるまでの期間(回復期間)、軽度の合併症、小児もしくは親の満足度を評価するためのエビデンスは不十分であった。2件の研究によると、スプリントのほうが医療費が安価であった。

4件の研究で、隆起骨折に対する、やわらかいもしくは伸縮性のある包帯と肘下からのギプスを比較していた。包帯固定の方が、4週時点での障害が少ないかどうかについては明らかでない。固定具を変更したり、固定期間をのばす必要のあった小児はほとんどいなかった(3件の研究)。重篤な有害事象は認めなかった。回復期間、手関節の痛み、軽度の合併症、満足度について評価するためのエビデンスは不十分であった。小児にとっては、包帯のほうがより便利であった(1件の研究)。

2件の研究(主に隆起骨折に関して)で、自宅で患者がギプスを外す場合と、骨折を診察している病院で医師がギプスを外す場合について比較していた(自宅でギプスを外す場合、ギプスカッターは不要)。全員、4週間で機能は回復していた(1件の研究)。治療方法の変更はほぼなく、重篤な有害事象は認めなかった。回復期間と軽度の合併症を生じた小児の数は報告されていない。4週目時点での痛みは、治療法によって差はないようだ(1件の研究)。自宅でギプスを外すのは、親の満足度が非常に高いようだ(1件の研究)。1件の研究によると、自宅でギプスを外すほうが医療費が安価であった。

4件の研究で、骨がずれている骨折に対する、肘下からのギプスと肘上からのギプスを比較していた。肘下からのギプスの方が、小児が他者からの介助を必要としないかどうかについては不明確である。2種類のギプスの間で、6か月時点での身体機能に差があるかどうかは不明確である(1件の研究)。肘上からのギプスで治療された全ての小児が、再整復を要したかどうかは不明確である。重篤な有害事象は認めなかった。回復期間と軽度の合併症については報告されていない。こわばり(関節がかたくなり動きにくくなること)に対して理学療法を要した割合はほとんど差がなかった。1週間時点での痛みは、肘下からのギプスのほうが少ない可能性がある(1件の研究)。1件の研究によると、肘下からのギプスの方が医療費が安い。

5件の研究で、ずれている骨折に対し、経皮的鋼線固定に加え肘上からのギプス固定をした場合と、閉鎖的整復(手術せずに骨のずれを整復する)後に肘上からのギプス固定のみをした場合を比較していた。短期の身体機能については報告されていない。6か月時点での機能に差はなかった(1件の研究)。手術が、治療の失敗(早期の鋼線抜去、もしくは鋼線抜去困難)と骨折部の再転位(再び骨折部がずれること)に対する再整復のリスクを減らすかどうかについては不明確である。手術した場合の方が、重篤な有害事象が少ないかどうかは明らかでない。回復期間、手首の痛み、満足度は報告されていない。手術した場合の方が、術後の理学療法の必要性が少ない可能性がある。1 件の米国の研究によると、2つの治療法の医療費は同等であった。

エビデンスの質

30件の研究全てで、研究結果の信頼性に影響を及ぼす弱点があった。我々は、全ての結果のエビデンスを、低いもしくは非常に低いと判断した。

結論

小児の様々なタイプの手関節骨折に対する最良の治療法を決定するための、十分なエビデンスは存在しない。しかしながら、レビューの結果は隆起骨折に対するギプス固定をしない方向性と一致している。

訳注: 

《実施組織》井上円加、増澤祐子 翻訳[2019.3.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012470》

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