APL以外のAMLを発症した成人患者に対する化学療法とATRAの併用療法

本レビューの目的

本レビューは、成人のAMLに対して、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)を化学療法に加えて用いた場合、化学療法単独と比較してその益・不利益を確かめることを目的としている。なお、APL患者は対象としていない。この臨床質問に答えるために、関連する研究を収集・検討した結果、8つの試験が見つかった。

要点

ATRAを化学療法に追加しても、全生存期間(OS)に関しては有意な差は認められなかった。一方、サブグループ解析では、デシタビンという抗がん剤との併用、高齢(60歳以上)の患者や化学療法が奏効して現在維持療法を受けているる患者では、ATRAの効果があるかもしれないことが示された。OS、無病生存期間、研究中の死亡率に関するエビデンスの質は、中等度と判断した。

有害事象の発生率が低かったため、下痢や嘔気・嘔吐、心毒性といった有害事象に関するエビデンスの質は、非常に低度~低度であった。有害事象としての感染症については、エビデンスの質は中等度と判断した。現時点では、ATRAを追加しても化学療法単独の場合と有害事象の発現リスクは同等であるようだ。

生活の質(QOL)に関する情報は、組み入れたどの試験においても報告されていなかった。

本レビューから分かったこと

急性骨髄性白血病は、骨髄の造血細胞由来の生命を脅かすがんの一種で、さまざまな徴候や症状を引き起こす。いくつかのサブタイプに分類され、そのうちAPLは、他のタイプとは異なる治療方法が用いられる。

およそ60%の患者が、診断時に65歳以上である。高齢で合併症を伴うため、高用量の化学療法と幹細胞移植による集学的治療は、しばしば不可能であったり、重篤な有害事象や治療関連死亡の高いリスクを伴ったりする。これらの理由により、高齢者にはより強度が低く、危険の少ない治療方法を見出すことが重要であろう。

ビタミンAの中間代謝物であるATRAは、1980年代の終わりにAPLの治療レジメンに組み込まれた。経口的に投与され、一般的に忍容性も良いが、分化症候群とよばれる、呼吸困難や発熱を伴った、重篤で命に関わる合併症も起こしうる。

文献によると、AML患者に対するATRAの効果については、結論が一致していない。化学療法に対する反応不良と関連し、予後不良因子とも考えられているあるタンパク質を減少させると、AML細胞株の化学療法への感受性が高まるという報告がある。これらの報告から、ATRAを化学療法に追加することでアウトカムが改善し、AML患者に対する化学療法のレジメンを変更したり強度を下げることにつながるかもしれないと考えられる。

本レビューの主な結果

合計してほぼ4000人の患者を含んだ、8つの関連研究が同定された。試験は、英国、ドイツ、フランスで実施されていた。これらの研究では、18歳以上のAML患者における、化学療法単独とATRA併用の化学療法を比較していた。AMLに対する化学療法のレジメンが複数存在するため、組み入れた研究では、それぞれ異なる化学療法のスケジュールを採用していた。1つの研究だけ、対象者がデシタビンというAMLに対して2012年から使用されている新薬が用いられていた。

ATRAを併用しても、化学療法単独と比較して、OSはおそらくほとんど、あるいはまったく違いがない。ATRAは、60歳以上の高齢患者や維持療法を受けている患者に対して、デシタビンとの併用時に有益である可能性が示唆されるが、これは更なる研究で調査される必要がある。

無病生存期間、寛解(CR)率、研究途中の死亡率については、化学療法単独群とATRA併用群の間に、まったく、あるいはほとんど差がなかった。

おそらくATRA併用療法は、感染症発症率の上昇をもたらさなかった。心毒性や下痢に関しては、エビデンスの質は非常に低く、ATRAの併用が有益かどうかは不確かである。

生活の質(QOL)に関する情報は、組み入れたどの試験においても報告されていなかった。

本レビューの更新状況

2018年7月までに公表された試験を検索した。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子 翻訳、康秀男 監訳[2018.8.30] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD011960》

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