鎌状赤血球症に対するビタミンD補充

レビューの論点

鎌状赤血球症 (sickle cell disease、SCD)患者に対するビタミンDサプリメントの効果に関するエビデンスのレビューを実施した。

背景

ビタミンD欠乏はSCDの患者によくみられる。ビタミンDは、カルシウム値を調整し、骨の健康をサポートする。ビタミンDが欠乏すると、SCDの患者が抱える骨の諸問題を悪化させる。SCDの患者において、ビタミンDサプリメントが、プラセボ(薬効のない物質)またはビタミンDサプリメント無しと比較して、良いか悪いか、また一方の摂取用量計画が他方より優れているかどうかを見出すことが必要であった。

検索期間

本エビデンスは2020年1月14日現在のものである。

研究の特性

参加者を異なる治療にランダムに割付けた3件の研究を対象とした。1つ目の研究では、SCD患者39例がビタミンDまたはプラセボ錠を6週間摂取し、6カ月間追跡調査した。2つ目の研究は、SCD患者62例がビタミンDを100,000国際単位(IU)/月または12,000IU/月のいずれかを2年間摂取した。3つ目の研究は、21例のSCD患者が7000IU/日または4000IU/日のいずれかを3カ月間摂取した。

主要な結果

ビタミンDとプラセボとの比較

ビタミンDサプリメントを摂取した人は、8、16、24週間後に測定した血中のビタミンD濃度が高かった。副作用(唇や手のしびれ)を報告した患者数に差はみられなかった。ビタミンD群は、疼痛を訴える日数が少なかった。8週間後、ビタミンD群は健康関連の生活の質(身体機能スコア)がわずかに悪化したが、16週間、24週間後の差が広がった。しかし、この科学的根拠(エビデンス)の質は低かった。

異なるビタミンD用量の比較

対象とした2件の研究のうち1件のみが、ビタミンDサプリメントの異なる用量を比較し、解析データを提供した。その研究データでは、高用量ビタミンD(100,000IU/月)を摂取した人は、1年後、2年後の血中ビタミンD濃度が高かった。副作用を報告した患者数、呼吸器イベント、肺機能(1秒間努力呼気容量)、握力に差はみられなかった。しかし別の肺機能指標である努力肺活量は、高用量群で低かった。

経口ビタミンD3、7000IU/日と4000IU/日とを比較した研究では、6週間と12週間の時点で、低用量群の患者において血中ビタミンD濃度の平均が低いことを報告した。高用量群は、12週間の時点で成長ホルモン値の平均が低かった。

エビデンスの質が中等度~低い3件の小規模試験の結果から、本レビューの結果は臨床診療の指針とするには十分な質とは言えないと考える。さらにエビデンスが得られるまで、臨床医は既存のビタミンD補充に関するガイドライン、カルシウムおよびビタミンD摂取に関する推奨事項を考慮すべきである。

エビデンスの質

ビタミンDとプラセボとの比較

参加者の割付け方法に関するバイアスのリスクは低かった。また研究開始後に、どの群に割付けられたかを参加者、医師ともに推測することはできなかった。当初の報告では有害事象の詳細が記されていなかったが、研究著者に問い合わせると、回答が得られた。研究から脱落した人は、ビタミンD群(5%)よりもプラセボ群(68.4%)の方が多かった。研究結果報告の方法によるバイアスのリスクは高かった。エビデンスの質は、血中ビタミンD濃度では中等度、有害事象、疼痛の日数、健康関連の生活の質に関しては低いと判断した。

異なるビタミンD用量の比較

参加者を異なる用量群に割付けた方法に起因するバイアスのリスクは、1件目の研究では低く、2件目の研究では不明であった。両研究とも開始後に、どの群に割付けられたかを参加者、医師ともに推測することはできなかった。脱落した参加者によるバイアスのリスクは低かったが、研究結果報告の方法に対するバイアスのリスクは高かった。エビデンスの質は、血中ビタミンD濃度および副作用では低く、呼吸器イベントでは中等度であった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD010858.pub3》

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