食品や飲料の健康的な購買・飲食行動を促す栄養成分表示

編集者注

このレビューの質問は、現在、2021年6月11日に公開された新しいプロトコルに基づいて行われています。https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD014845

今回のレビューでは、エネルギー表示に焦点を絞るとともに、アルコール製品のエネルギー表示に対する最近の政策的関心を反映して、対象製品の範囲をアルコール飲料に広げています。

 

過剰なエネルギー摂取を含む好ましくない食事は、健康障害の重大な原因である。栄養成分表示は、人々が健康的な食品を選択する助けとなる可能性がある。

本レビューの目的は何ですか。

本レビューは、栄養成分表示(栄養分に関する情報を提供する表示)によって、人々が異なる(健康的な)種類の食品を購入または摂取するかどうかを調べるものであった。この疑問に答える入手可能なエビデンスをすべて検索し、28件の研究を特定した。

要点

エネルギー量の情報(カロリー摂取量など)をメニューに記載する栄養成分表示が、レストランで購入されるエネルギー量を減少させることを示唆するエビデンスがある。しかし、この知見の確実性を上げるために、もっと質の高い研究が必要である。

このレビューからわかったこと

自動販売機や食料雑貨店、レストラン、カフェテリア、喫茶店での食品または飲料の購買活動を評価する研究があった。また、人工的な環境またはシナリオ(以下、実験室の研究または環境と呼ぶ)で、1回の軽食または食事で摂取される食品または飲料の量を評価する研究もあった。

本レビューの主な結果は何ですか。

レストランのメニューに栄養成分表示を記載すると、購入されるエネルギー量(カロリー)が減少する。しかし、この知見に関与する3件の研究の質は低いため、我々の推定効果に対する確実性は限定的であり、将来の研究によって変わる可能性がある。8件の研究は、実験室の環境で同じタイプの介入を評価していたが、参加者が購入したエネルギー量を評価するのではなく、参加者が摂取したエネルギー量 を評価していた。これらの研究は、メニューまたは食品に表示がある場合に食事で摂取されるエネルギー量が減少すると結論づけることはできず、また、質も低かった。

また、6件は、実験室環境で1種類の食品または飲料を表示ありまたは表示なしで提示した場合に参加者が摂取するエネルギー量を評価していた。また、5件は、実験室環境で、実際にはエネルギー量の高い食品に実験的に低エネルギー量または低脂肪と表示した(誤表記)場合に参加者が摂取するエネルギー量を評価していた。これらの2群の研究から得られた知見は決定的でなく、質が低かった。特に、誤表記の研究は質が非常に低かった。自動販売機や食料雑貨店での表示を評価した研究も見つかったが、その結果は解釈が容易ではないため、本レビューの評価には採用できなかった。

本レビューはどれくらい最新のものなのか。

このエビデンスは2017年4月26日現在のものである。

著者の結論: 

小規模で質の低いエビデンスからの結論であるが、メニューにエネルギー量の情報を含む栄養成分表示を記載すると、レストランで購入されるエネルギー量が減少する可能性があることが示唆される。実験室の環境でメニューに記載されたエネルギー量の情報が摂取量や食品選択に与える影響を評価するエビデンスも同様の効果を示唆している。

ただし、エビデンスは確定的なものでなく質も低かった。以上のことを鑑み、また害が認められていないことから、レストランのメニューに栄養成分表示を行うことは、肥満対策の一環として利用できる可能性があることを示唆することとする。さらに確実な結論を得るためには、実世界の環境で質の高い追加研究を行う必要がある。

また、食料雑貨店や自動販売機でのエビデンスの不足に対処し、社会経済的状況を含む介入の効果を調整しうる因子を評価するためにも、質の高い追加研究が必要である。

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背景: 

栄養成分表示は、低エネルギー摂取など、健康に良い食品の購買・飲食行動を促す手段になるとされる。国際的には、栄養成分表示は国ごとに多種多様な方式が採用されており、健康的な行動を促すうえでどのような表示方法が効果的であるかというコンセンサスは存在しない。

目的: 

食品やアルコールを含まない飲料の栄養成分表示が、健康食品の購買・飲食行動に対して与える影響を評価すること。副次的目的は、購買・飲食行動に対する栄養成分表示の効果を調整しうる因子を探索することである。

検索戦略: 

2017年4月26日までの、CENTRAL、MEDLINE、Embaseなど13の電子データベースを検索した。参考文献および引用のハンドサーチも実施し、ウェブサイトや登録試験から未発表の研究を検索した。

選択基準: 

適格な研究:ランダム化または準ランダム化比較試験(RCT/Q-RCT)、前後比較対照研究、または分割時系列(ITS)研究である。栄養成分表示(栄養素またはエネルギーの情報)のある製品と表示のない同じ製品とを比較している。実世界または実験室の環境で食品またはアルコールを含まない飲料の購買・飲食行動を客観的に測定して評価している。

データ収集と分析: 

2名の著者がそれぞれ試験を組み入れのために選抜し、データを抽出した。エビデンスの質の評価には、コクランの「Risk of bias(バイアスのリスク)」ツールとGRADEを用いた。メタアナリシスの変量効果モデルを用いて、類似の介入やアウトカムを評価している研究を結合し、他の研究からのデータをナラティブの要約(記述要約)に統合した。

主な結果: 

本レビューには、RCT 17件、Q-RCT 5件、ITS研究6件の計28件の研究を組み入れた。研究の大部分(21/28件)は米国で実施され、19件は大学で実施され、14件は主な被験者が大学生と大学職員であった。その大部分(20/28件)は、メニューやメニューボードに記載された表示や、被験者が選択できる食品または飲料に貼付または横に記載された栄養成分表示の影響を評価していた。8件では、表示のある食品または飲料の選択肢が1種類だけで(表示方法は、容器またはパッケージ上、食品の横、またはメニューボード上であった)、評価は消費した量で行った。最も多く評価されていた表示は、エネルギー量(カロリー)の情報であった(12/28件)。

11件では実世界での食品または飲料の購買行動に対する栄養成分表示の影響を評価していた。自動販売機での購入(クラスターRCT 1件)、食料雑貨店での購入(ITS 1件)、レストランやカフェテリア、喫茶店での購入(RCT 3件、Q-RCT 1件、ITS 5件)であった。自動販売機や食料雑貨店についての結果は説明がつかず、きわめて質が低いと評価された。レストランのメニューのエネルギー表示を評価しているRCT 3件のメタアナリシスでは、購入される食品のエネルギー量が統計学的に有意に47 kcal低下していた(MD -46.72 kcal、95% CI -78.35、-15.10、N = 1877)。平均的な1回の食事を600 kcalと仮定すると、メニューにエネルギー量を表示すると、購入される1食ごとのエネルギー量が7.8%低減される(95% CI 2.5%~13.1%)であろう。これら3件の研究はエビデンスの質が低いと評価されたため、我々の推定効果に対する確実性は限定的であり、将来の研究によって変わる可能性がある。残りの6件のうち、バイアスのリスクが低いと判定され、その結果がメタアナリシスの裏付けとなったのは、 わずか2件(いずれも喫茶店またはカフェテリアでメニューまたはメニューボードにエネルギー量を表示していたITS研究)であった。他の4件の研究結果は、それぞれレストラン(1件)、カフェテリア(2件)、または喫茶店(1件)で実施されたが、報告が明確でなく、バイアスのリスクが高かった。

17件では、人工的な環境またはシナリオ(以下、実験室での研究または環境と呼ぶ)における摂取について栄養成分表示の影響を評価していた。うち8件(すべてRCT)は、メニュー上の表示の効果を評価し、あるいは食品の選択肢を提示していた。これらの研究のメタアナリシスでは、食事で摂取されるエネルギー量の減少を結論づけることはできなかった(MD -50 kcal、95% CI -104.41、3.88、N = 1705)。エビデンスの質は低いと判断したため、我々の推定効果に対する確実性は限定的であり、将来の研究によって変わる可能性がある。

実験室の研究6件(RCT 4件、Q-RCT 2件)は、単一食品または飲料(チョコレート、パスタ、ソフトドリンクなど)の栄養成分表示が、1回の軽食または食事で摂取されるエネルギー量に与える影響を評価していた。これらの研究のメタアナリシスでは、摂取エネルギー量(kcal)に統計学的に有意な差は示されなかった(SMD 0.05、95% CI -0.17~0.27、N = 732)。ただし、信頼区間は広く、真の効果サイズの不確実性を示唆している。エビデンスの質は低いと判断したため、推定効果に対する確実性は限定的であり、将来の研究によって変わる可能性がある。

栄養成分表示によって、購入または摂取されるエネルギー量が増加する意図せぬ悪影響があるというエビデンスは存在しなかった。1回の軽食または食事で、単一の栄養量を誤表記(高エネルギー食品に低エネルギー量または低脂肪と表示)した実験室の研究5件から得られた間接的なエビデンスは存在する。これらの研究のメタアナリシスでは、摂取エネルギー量(kcal)に統計学的に有意な増加はみられなかった(SMD 0.19、95% CI -0.14~0.51、N = 718)。効果は小さく、信頼区間が広いことから、真の効果サイズの不確実性が示唆される。これらの研究のエビデンスの質はきわめて低いと判断しており、推定効果に対する確実性はきわめて小さい。

訳注: 

《実施組織》 森臨太郎(コクランジャパン)監訳 [2018.03.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009315》

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