母親が早産の危険にさらされている場合、胎児への副腎皮質ステロイド(薬)の直接注入は、母親への注入と比較して、胎児の転帰を改善することができる。

論点は何か?

早産(妊娠37週以前)の赤ちゃんは、肺が十分に発達していないため、脳への出血や呼吸の問題を抱え、死に至る危険性がある。出生前に母親に投与される副腎皮質ステロイド(薬)(以下、ステロイド)治療は、これらの問題の予防に有効であることが示されており、多くの国で標準治療となっている。ステロイドを投与する一般的な方法は、母親の筋肉に注射することである。ステロイドの治療薬は、胎盤を通じて胎児に移行する(経胎盤移行)。この治療には、胎児の成長や脳の発達を妨げたり、赤ちゃんの糖尿病や高血圧などの病気のリスクを高めたりするなどのリスクがある。胎児に直接ステロイドを注入することは、超音波ガイド下であれば可能である。

なぜこれが重要なのか?

ステロイドを母体の筋肉に注射するのではなく、胎児に直接注射することで、母体の血圧上昇、血糖値上昇、敗血症になりやすいなどのリスクを防ぐことができる。また、必要なステロイドの量を減らすことができる。しかし、子宮への感染や胎児の損傷のリスクがあり、早産や出産を引き起こす可能性もある。胎児への直接投与を母体への投与と比較して、その有益性と有害性を評価した研究は存在しないことがわかった。

得られたエビデンス

2017年10月25日にエビデンスを検索したところ、早産のリスクがある女性を対象に、ステロイドの胎児への直接注入を母体への注入と比較した場合の有益性と有害性を評価した完成したランダム化比較試験は見つからなかった。2件の研究が見つかったが、1件はランダム化比較試験ではなく、もう1件の研究では方法が不明瞭であったため、研究著者に連絡して詳細を確認した。

これは何を意味するのか?

ステロイドを胎児に直接注射した場合と、母親の筋肉に注射した場合の効果を評価するためには、さらなる研究が必要である。これらの試験に参加した胎児を長期間にわたって追跡調査し、脳性麻痺などの障害を含む小児期の発達に対するステロイドの影響をモニターする必要がある。ある方法が他の方法よりも優れているかどうかを証明するために、質の高いランダム化試験が必要である。

訳注: 

《実施組織》小林絵里子、阪野正大 翻訳[2021.10.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008981.pub3》

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