機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)治療における鍼療法

機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)(FD)は、世界各地で認められる胃障害である。従来の医療よりも少ない有害作用で、より効果的な治療が必要とされている。東洋では、鍼療法が機能性胃障害の有益な治療法として長い間認識されている。現在まで、その有効性と安全性についての確固たるエビデンスは認められていない。FDの治療において、鍼療法は、薬物治療と比較して全く有意性が認められなかったこと、また偽鍼療法と比較して優越性が認められたことを得られたエビデンスは支持している。しかしエビデンスの質が低いため、FDの治療に対して鍼療法の有効性と安全性に関する確固たる結論は認められない。

著者の結論: 

FDの患者におけるマニュアル鍼療法または電気鍼療法が、他の治療と比較してより有効で安全かどうかは依然として明らかではない。

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背景: 

機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)(FD)は、世界各地で認められる疾患である。従来の医療よりも少ない有害作用で、より効果的な治療が必要とされている。鍼療法は伝統的な治療法として、東洋では機能性胃腸障害の治療に広く用いられている。FDの治療は、マニュアル鍼と電気鍼を用いたものが知られているが、現在この治療に対する鍼療法の有効性と安全性の確固たるエビデンスは認められていない。

目的: 

このレビューはFDの治療に対するマニュアル鍼と電気鍼の有効性と安全性を評価するために行われた。

検索戦略: 

組み入れ基準を満たした試験は、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、 MEDLINE、 EMBASE、the Allied and Complementary Medicine Database (AMED)、Chinese Biology Medicine Disc (CBMdisc)、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、the Wanfang Database、the VIP Database、6件の試験登録を電子検索から同定した。可能性のある試験およびレビューの参考文献は、ハンドサーチで検索した。

選択基準: 

ランダム化比較試験(RCT)は、薬剤、ブランクコントロール、または偽鍼療法と比較して、Rome II またはRome III基準で診断されたFD患者におけるマニュアル鍼と電気鍼の有効性と安全性が研究者により報告された場合に対象とした。

データ収集と分析: 

レビュー著者が個別にデータを抽出した。コクラン共同計画のバイアスのリスク評価ツールを用いて研究の限界を評価した。二値データにはリスク比(RR)および95%信頼区間(95%CI)を用い、連続データには平均差(MD)および95%CIを用いた。メタアナリシスでは、固定効果モデルを用いるか、記述的分析を行った。アウトカム指標におけるエビデンスの質はGrading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation (GRADE) システムを用いて評価した。

主な結果: 

このレビューには、FDの参加者542例(男性212例、女性330例)を対象とした7件の研究を採用した。これらの研究は通常、割り付けの隠蔽化の記載が不十分なためバイアスのリスクが不明で、盲検化でないためバイアスのリスクが高い。Functional Digestive Disorder Quality of Life questionnaire(FDDQL)、Satisfaction With Dyspepsia Related Health scale(SODA)、Digestive Health Status Instrument (DHSI)におけるアウトカム、または有効/無効率、鍼療法から6カ月後の症状の再発の有無を報告した研究はなかった。

レビューでは、鍼療法と薬剤(シサプリド、ドンペリドン、イトプリド)を比較した4件のRCTを対象とした。薬剤治療と比較して、マニュアル鍼療法、マニュアル電気鍼療法、電気鍼療法はFD症状スコアの低下およびFD発作回数の減少における統計学的な有意差は認められなかった。鍼療法と偽鍼療法を比較した3件の試験で、すべての記述的分析または定量分析の結果は、鍼療法が偽鍼療法と比較してFD症状スコア、Neck Disability Index (NDI)、36-Item Short Form Health Survey (SF-36)、Self-Rating Anxiety Scale (SAS)、Self-Rating Depression Scale(SDS)のスコアを改善した可能性がある、または偽鍼療法と同様に有意であることを示唆した。有害作用に関しては、鍼療法がシサプリド治療よりも優れていた(1件の研究、すべて小規模なイベント)が、鍼療法と偽鍼療法との間に統計学的な有意差は報告されなかった。マニュアル鍼療法とドンペリドンとの比較、マニュアル電気鍼療法とドンペリドンとの比較、電気鍼療法とイトプリドとの比較を観察した研究で、有害作用の報告はなかった。

しかしながら、すべてのエビデンスの質は低い、または非常に低いものであった。同定されたエビデンス総体はFDに対する鍼療法の有効性および安全性に関して確固たる結論を認めるものではない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.6]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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