アンチオキシダント療法は慢性腎臓病の人に有用だろうか

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慢性腎臓病(CKD)の人は心臓病にかかる危険性が高く、早くに死亡する可能性がある。 心臓病の原因は多くあるが、体の細胞での酸素交換がうまくいかないため細胞が傷つく(酸化ストレス)ことが大きな問題と考えられている。 CKDの人には酸化ストレスの徴候がみられることが多く、これは腎臓病が悪化する度合いと比例する。 アンチオキシダント療法がCKD患者の予後にどのように影響するか評価するため、現在みられるエビデンスについて評価した。 全体として、アンチオキシダント療法によるCKDの人の心臓病や死亡の危険性は低下しなかったが、CKDの病期によって結果は変わっていた。 透析中の人ではアンチオキシダント療法が有用で、腎臓病が悪化する危険性が減るかも知れないというエビデンスがあった。 しかし、これらの結果はとても限られたエビデンスに基づくものであり、CKDの人でアンチオキシダント療法が有用か確認する研究がさらに必要である。

著者の結論: 

アンチオキシダント療法は、CKDの人での心血管系死亡、全死亡、または主要な心血管系イベントのリスクを低下しないが、特に透析中のCKDの人ではある程度の利益がある可能性がある。 しかし、選択した研究は小規模で全般的に質が最適とはいえないことから、この可能性を確認する十分な検出力の研究が必要である。 現在のエビデンスから、透析適応前のCKD患者においてアンチオキシダント療法によりESKDへの進行が予防されることが示唆されるが、 本所見は非常に少数のイベントに基づいたものであった。 確認のため長期フォローアップを行うさらなる研究が必要である。 CKDの人におけるアンチオキシダント療法の効果を確実に評価するため、十分な検出力の研究が必要である。

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背景: 

慢性腎臓病(CKD)は早期の心血管系疾患および死亡の有意な危険因子である。 CKDの人での酸化ストレス増加は、一部の心血管疾患の原因因子として関与している可能性がある。 アンチオキシダント療法により、CKDの人における心血管系死亡率および罹病率が低下する可能性がある。

目的: 

第3~5病期のCKD、透析および腎移植患者において、死亡率および心血管系イベントに対するアンチオキシダント療法の利益および有害性を検討すること。

検索戦略: 

Cochrane Renal Group's specialised register(2011年7月)、 CENTRAL(2011年第6号)、 MEDLINE(1966年~)およびEMBASE(1980年~)を検索した。

選択基準: 

CKDの人に対するアンチオキシダントの使用を検討しているすべてのランダム化比較試験(RCT)、またはCKDの参加者のアウトカムを報告しているRCTのサブセットを選択した。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々にタイトルおよび抄録を調査し、標準化フォームを用いてデータを抽出した。 ランダム効果モデルを用いて結果を統合し、リスク比(RR)または平均差(MD)のいずれかをその95%信頼区間(CI)とともに表示した。

主な結果: 

アンチオキシダント療法を評価している10件の研究(参加者1,979名)を同定し、 対象は血液透析患者(2研究)、腎移植受容者(4研究)、透析CKD患者および透析をうけていないCKD患者(1研究)、手術を必要としている患者(1研究)であった。 その後追加された2研究は、経口投与のアンチオキシダント炎症調節物質について、CKD患者[推定糸球体濾過量(eGFR)20~45 mL/分/1.73 m2]での効果と、軽度から中等度の腎不全(血清クレアチニン125 μmol/L以上)の人からなるサブグループによる事後所見をそれぞれ報告していた。 介入として、異なる用量のビタミンE(2研究)、複数のアンチオキシダント療法(3研究)、 コエンザイムQ(1研究)、アセチルシステイン(1研究)、バルドキソロンメチル(1研究)、ヒト遺伝子組み換えスーパーオキサイドジスムターゼ(2研究)が使用されていた。 プラセボに比べ、アンチオキシダント療法は以下の事項に対し明らかな全般的効果を示さなかった:心血管系死亡率(RR 0.95、95%CI 0.70~1.27、P = 0.71)、 全死亡率(RR 0.93、95%CI 0.76~1.14、P = 0.48)、心血管系疾患(RR 0.78、95%CI 0.52~1.18、P = 0.24)、冠動脈性心疾患(RR 0.71、95%CI 0.42~1.23、P = 0.22)、脳血管障害(RR 0.91、95%CI 0.63~1.32、P = 0.63)、末梢血管疾患(RR 0.54、95%CI 0.26~1.12、P = 0.10)。 サブグループ解析では、心血管系疾患での男性(P = 0.99)または糖尿病(P = 0.87)の割合に基づく有意な異質性のエビデンスを認めなかった。 CKDの病期別に研究を解析した場合、心血管系疾患について有意な異質性が認められた(P = 0.003)。 透析患者での心血管系疾患予防に対しアンチオキシダント療法により有意な利益が得られたが(RR 0.57、95%CI 0.41~0.80、P = 0.001)、 CKD患者では効果はみられなかった(RR 1.06、95%CI 0.84~1.32、P = 0.63)。 アンチオキシダント療法は、末期腎臓病(ESKD)の進行を有意に減少し(RR 0.50、95%CI 0.25~1.00、P = 0.05)、 血清クレアチニン値を有意に低下させ(MD 1.10 mg/dL、95%CI 0.39~1.81、P = 0.003)、 クレアチニンクリアランスを有意に改善した(MD 14.53 mL/分、95%CI 1.20~27.86、P = 0.03)。 アンチオキシダントによる重篤な有害事象の有意な増加はなかった(RR 2.26、95%CI 0.74~6.95、P = 0.15)。 すべての研究についてバイアスのリスクを評価した。 ランダム割り振り順番の作成または割りつけの隠蔵化(コンシールメント)について不明と分類された研究(RR 0.57、95%CI 0.41~0.80、P = 0.001)は、バイアスのリスクが低い研究(RR 1.06、95%CI 0.84~1.32、P = 0.63)に比べてアンチオキシダント療法による有意な利益を報告していた。