小児がんに対するアントラサイクリン系化学療法剤による心機能関連副作用の治療

 アントラサイクリン系抗がん剤はさまざまな小児がんに用いられる薬剤である。アントラサイクリンの重大な副作用に心臓へのダメージがあり、がん治療中と治療後に無症候性(自覚症状のない)または症候性(自覚症状のある)の心機能障害を生じることがある。成人ではアントラサイクリン以外の原因による心機能障害に対し治療薬がいくつかあるが、そのような治療薬が小児がんの患者およびサバイバーにみられるアントラサイクリン誘発性心機能障害の治療に有効かどうかは明確ではない。小児がんの患者あるいはサバイバーにアントラサイクリンによる心臓関連副作用が認められた場合、医師は質の高いエビデンスに基づき、治療効果有害作用を勘案し治療戦略を決定すべきである。本レビューでは、小児がんの患者とサバイバーに発現したアントラサイクリン誘発性心機能障害に対する治療薬を評価した試験を検索し要約した。

 ランダム化試験が2件確認された。それぞれ評価対象とした患者群、薬剤とも異なるものであった。1件はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬エナラプリルで、アントラサイクリンにより生じた小児がんサバイバーの無症候性心機能不全に対し、プラセボと比較したとき短期間の効果を示した。しかし、エナラプリルはそれ以外の重要な転帰には何ら有意な効果を示さず、めまいや疲労等の副作用と関連性を示した。本研究の質はほどほどに良い程度であった。2件目の研究は、小児白血病患者の症候性あるいは無症候性の心機能障害に対するクレアチンリン酸による短期治療を、ビタミンC、アデノシン3リン酸、ビタミンE、経口コエンザイムQ10を対照群として比較した試験であるが、試験の質が低く、効果も認められなかった。

 小児がんの患者とサバイバーに生じたアントラサイクリンによる心機能障害の治療選択肢について決定的な結論を出すことはできなかった。これらの患者の心機能を改善させる薬剤があるのかどうかを判断するには質の高い研究が必要である。

著者の結論: 

 小児がんサバイバーの無症候性心不全に対するエナラプリルの効果が確認された試験は1件のみであった。エナラプリルが一時的に心機能パラメータのうちの一項目(LVESWS)を改善したものの、臨床転帰を改善するか否かは明らかではない。また、エナラプリルによりめまい、低血圧、疲労のリスクが増加した。小児がんサバイバーのアントラサイクリン誘発性無症候性心毒性に対しエナラプリルを使用する際には、医師はその既知の副作用を勘案した上で利益を判断すべきであろう。

 アントラサイクリン誘発性心毒性を有する小児がん患者に対するクレアチンリン酸の効果を評価した試験は1件のみであった。これはハイリスクのバイアスを含む限定的データで、クレアチンリン酸とコントロール群の間に心エコー評価による心機能と臨床転帰において有意は認められなかった。

 小児期のがん患者あるいはサバイバーを対象とした症候性あるいは無症候性の心毒性に対する他の医学的介入を研究したRCTおよびCCTは確認されていない。

 さらに質の高い研究を実施することが必要である。

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背景: 

 アントラサイクリン系抗がん剤は小児がんによく用いられる化学療法剤であるが、治療中や治療後に生じる副作用として心毒性がある。成人では、アントラサイクリン系抗がん剤以外の原因による症候性または無症候性の心毒性に対し有効な治療法が報告されているが、同じ治療法が小児患者や小児サバイバーのアントラサイクリン誘発性心毒性に対しても有効であるかどうかは明らかではない。本レビューは過去のコクランレビューを更新したものである。

目的: 

 小児がん患者および小児がんサバイバーにおけるアントラサイクリン誘発性心毒性に対する医学的介入効果を、プラセボ、他の治療、無治療と比較すること。

検索方法: 

 関連文献としてCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (the Cochrane Library, 2015, Issue 8)、 MEDLINE/PubMed (1949年~ 2015年9月)、 EMBASE/Ovid (1980年~2015年9月) から検索した。また、以下の文献参考文献リストと学会抄録集からも検索した。International Society for Paediatric Oncology (SIOP)、 American Society of Clinical Oncology (ASCO)、 American Society of Hematology (ASH)、International Conference on Long-Term Complications of Treatment of Children & Adolescents for Cancer、European Symposium on Late Complications from Childhood Cancer ( 2005年~ 2015年)、現在進行中の以下に登録された臨床試験データベース[(ISRCTN 、 National Institutes of Health (NIH) 、 世界保健機構 (WHO)(すべて2015年9月に検索))]。

選択基準: 

 アントラサイクリン治療後の心毒性に対する効果プラセボ、他の治療、あるいは無治療を対象に比較したランダム化比較試験(RCT)または比較臨床試験(CCT)。

データ収集と分析: 

 レビュー著者2名が個別に研究を選択した。1名がデータの抽出とバイアスのリスク評価を行い、もう1名がチェックを行った。解析はCochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsガイドラインに従った。

主な結果: 

 初回のレビューでは2件のRCTを特定したが、今回の更新で研究の追加はなかった。1件目は小児がんサバイバーにおける無症候性アントラサイクリン誘発性心機能不全患者135例を対象に、エナラプリルとプラセボを比較した研究。2件目はアントラサイクリン誘発性心毒性を発現した白血病患者68例を対象にクレアチンリン酸で2週間治療した群と対照群(ビタミンC、アデノシン3リン酸、ビタミンE、経口コエンザイムQ10)を比較した研究である。両研究とも方法論的限界があった。

 エナラプリルのRCTによると、全生存率、心不全による死亡率、臨床的心不全、QOLにおいてエナラプリル治療群と対照群の間に統計的有意は認められなかった。後付け解析では心機能の数値のうち一項目が治療開始1年後にプラセボと比較して低下(改善)したが(left ventricular end-systolic wall stress (LVESWS): エナラプリル:-8.62%、プラセボ:+1.66% ,P = 0.036)その後、有意は消失した。エナラプリル治療群ではめまいや低血圧 (リスク比 7.17, 95%信頼区間1.71 -30.17)、疲労(Fisher's exact test, P = 0.013)などの有害事象の発現がより高い傾向にあった。

 クレアチンリン酸のRCTでは全生存期間、心不全による死亡率、心エコー評価、有害事象において治療群と対照群の間に有意は認められなかった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 武内優子 翻訳、林 正樹(社会医療法人敬愛会中頭病院 血液・腫瘍内科)監訳 [2017.1.7] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD008011》

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