糖尿病性黄斑浮腫のための抗血管新生療法

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糖尿病性黄斑浮腫(DMO)は、糖尿病性網膜症の一般的な合併症です。黄斑の網膜が肥厚するため、中心視力の緩慢な低下が生じます。グリッドレーザ光凝固療法または限局性レーザ光凝固療法はDMO治療に有効で、数年使用されてきましたが、視力の改善はまれでした。抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)モダリティを伴う抗血管新生療法は最近、DMO患者の視力改善の試みとして提案されています。抗VEGF薬は眼の硝子体腔内への注射で送達し、維持のため反復する必要があります。<br /><br />硝子体内抗血管新生療法を偽治療、レーザー光凝固療法と比較するかまたは、光凝固療法を併用しその効果を検討する11件の試験を本レビューに組み入れました。5または7名以上の患者中約1名が、レーザー療法より抗血管新生療法で、初年に7~10回、2年目に2回の眼内注射により十分な視力改善(3ライン以上)を認めました。この期間を超える治療の必要性については明らかになっていません。英国での2件の関連のある経済的評価では、ラニビズマブがレーザー光凝固療法より費用効果があるかという点について否定的でした。ラニビズマブに費用効果がないという評価所見は訂正されましたが、一方で本レビュー更新の結果、英国国立医療技術評価機構(NICE)は、視力障害および光コヒーレンストモグラフィでより重度の浮腫を認める患者対しラニビズマブ投与を推奨することにしました。<br /><br />抗血管新生療法は、上記試験で十分な忍容性を示しましたが、全試験が短期または中期であったため、長期の効果およびリスクを検討することができませんでした。

著者の結論: 

抗血管新生薬により、現在のDMOに対する治療選択肢(グリッドレーザー光凝固療法またはレーザが選択肢でない無治療)よりわずかではあるが明らかに有効であるという中等度の品質のエビデンスがある。エビデンスの品質および量はラニビズマブで大幅に認められたが、薬剤の差を調査するには検出力が不足した。大半のデータは1年目に得られ、DMOは慢性疾患であるため長期間かけて確認する必要がある。試験において薬剤および硝子体内注射手順の安全性はともに良好であったが、全身の有害事象に関する僅かであるが臨床的に重要な差を除外するため、さらに長期のデータが必要である。

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背景: 

糖尿病性黄斑浮腫(DMO)は、糖尿病性網膜症の一般的な合併症である。グリッド光凝固術または限局性レーザー光凝固術により、DMOにおける失明または臨床的に意義のある黄斑浮腫(CSMO)のリスクが低下することが示されたが、視力はほとんど改善しない。DMO患者の視力改善のため、最近は抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)モダリティを伴う抗血管新生療法が提案されている。

目的: 

DMO患者の視力の保存または改善のための抗VEGF療法の有効性、安全性および費用対効果を評価する。

検索戦略: 

CENTRAL(Cochrane Eyes and Vision Group Trials Register)(コクラン・ライブラリ2012年第6号)、MEDLINE(1946年1月~2012年6月)、EMBASE(1980年1月~2012年6月)、metaRegister of Controlled Trials(mRCT)(www.controlled-trials.com(ClinicalTrials.gov(www.clinicaltrials.gov))およびWHO(世界保健機関)International Clinical Trials Registry Platform(ICTRP)(www.who.int/ictrp/search/en)を検索した。試験の電子検索に年月日および言語の制限を設けなかった。最後に電子データベースを検索したのは2012年6月13日であった。

選択基準: 

DMO患者対象に抗VEGFの作用機序を有する抗血管新生薬と別の治療、偽治療または無治療と比較するランダム化比較試験(RCT)を組み入れた。費用対効果を評価する経済評価も組み入れた。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々にデータを抽出した。3ライン以上の視力低下および視力改善のリスク比(RR)を治療の6ヵ月以上後に推定した。構造化書式を用いて、各経済分析を記述した。

主な結果: 

11件の試験により本レビューで対象とした3件の比較に関するデータが得られた。約1年目の3ライン以上の視力改善または低下のRRに基づき結論を得て、追跡調査ではより一貫した報告が得られた。<br /><br />偽治療との比較では、3件の試験(参加者497名、追跡期間8~12ヵ月間)に、抗血管新生療法で(ペガプタニブ:2件の試験、参加者246名;ラニビズマブ:1件の試験、参加者151名)3ライン以上の視力の改善または低下する確率が2倍となり、さらに各々半減するという中等度の品質のエビデンスが認められた(RR:2.19、95%CI 1.36~3.53;RR:0.28、95%CI 0.13~0.59)。メタアナリシスでは、ペガプタニブに比しラニビズマブが有益であったが、主要アウトカムについて有意なサブグループの差は実証されなかった。<br /><br />グリッドレーザ光凝固療法との比較では、抗血管新生療法(ベバシズマブ:2件の試験、参加者167名;ラニビズマブ:2件の試験、参加者300名;アフリベルセプト:1件の試験、参加者221名、89名をデータ抽出に使用)で3ライン以上視力が改善または低下する確率が2倍を超えた後、各々3分の2以上低下した(RR:3.20、95%CI 2.07~4.95;RR:0.13、95%CI 0.05~0.34)。メタアナリシスでは、主要アウトカムについてはベバシズマブ、ラニビズマブおよびアフリベルセプト間に有意なサブグループの差を認めなかったが、ここでも差を検出する検出力が不足した。<br /><br />グリッドレーザ光凝固療法単独との比較では、ラニビズマブ+光凝固療法(3件の試験、参加者783名)により3以上のラインの視力が改善または低下する確率は2倍になり、その後各々少なくとも半減した(RR:2.11、95%CI 1.67~2.67;RR:0.29、95%CI 0.15~0.55)。<br /><br />全身および眼の有害事象は組み入れた試験ではまれにしか認められなかった。全抗血管形成薬について実施されたメタアナリシスでは、偽治療または光凝固療法を比較し(9件の試験、参加者2,159名中104件のイベント)、動脈血栓塞栓イベントについて有意差を認めなかった[RR 0.85(0.56~1.28)]。同様に、全死亡率[53件のイベント、RR:0.95(0.52~1.74)]に差を認めなかったが、臨床的に意味のある差を除外できなかった。