男性不妊症に対する抗酸化物質

レビューの論点
抗酸化物質の経口補充は、プラセボ、無治療、他の抗酸化物質と比較して、不妊症の男性の妊孕性(妊娠させる力)を向上させるか?

背景
1年以上妊娠を試みても妊娠できないカップルには、不妊の問題があると考えられる。不妊治療を行っている多くの不妊症の男性は、妊孕性の向上を期待して栄養補助食品を摂取している。不妊治療は、男性やそのパートナーにとって非常にストレスとなり得る。このようなカップルが、抗酸化物質の栄養補助食品に関する十分な説明を受けたうえで摂取するかどうかを決定できるように、質の高い科学的根拠(エビデンス)を利用できる状況が重要である。これは、抗酸化物質の栄養補助食品の多くは法令の規制を受けていないため、特に重要となる。今回のレビューは、不妊症の男性が抗酸化物質の栄養補助食品を摂取することで、臨床的妊娠(超音波検査で妊娠と確認できること)と生児出産(最終的に赤ちゃんが産まれること)の可能性が高くなるかどうかを評価することを目的とした。精子が正常だった男性における抗酸化物質の使用については調べなかった。

研究の特徴

10,303人の不妊症の男性を対象に、18種類の抗酸化物質とプラセボ、無治療、その他の抗酸化物質を比較した90件のランダム化比較試験を含むレビューを行った。参加者の年齢は18~65歳であった。参加者は不妊治療クリニックに紹介されたカップルの男性で、不妊治療を受けている者もいた。エビデンスは2021年2月現在のものである。

主な結果
抗酸化物質は、出生率と妊娠率の上昇に関連する可能性がある。出生率について、対象となった母集団にもとづくと、抗酸化物質を摂取していない不妊症の男性では、100組中16組のカップルに赤ちゃんができると想定される。一方、抗酸化物質を摂取している不妊症の男性では、100組中17~27組のカップルが赤ちゃんを授かることになる。バイアスのリスクが高い研究を除外した場合、抗酸化物質を摂取したグループで出生率が増加するというエビデンスはない。妊娠に関する調査では、抗酸化物質を摂取していない不妊症の男性では、100組中15組のカップルが妊娠すると予想される。抗酸化物質を摂取している不妊症の男性では、100組中20~30組が妊娠をすることになる。有害事象の報告は不十分であった。流産を報告した研究は6件のみであった。これらの研究では、抗酸化物質を使用したグループは、プラセボや無治療のグループと比較して、流産がより頻繁に起こることはなかった。しかし、抗酸化物質の使用と流産のリスクについて結論を出すには十分なエビデンスがない。抗酸化物質の使用は、軽度の胃の不快感の増加に関連する可能性があり、抗酸化物質を摂取していない不妊症の男性ではその頻度は2%、抗酸化物質を摂取している男性では2~7%とされている。栄養補助食品は、吐き気や胃の痛みなどの不快感をもたらすことがある。

著者の結論とエビデンスの確実性
不妊治療クリニックに通うカップルの不妊症の男性が抗酸化物質を摂取することで、赤ちゃんができる可能性が高まるかもしれない。しかし、12件の中小規模のランダム化比較試験のみから得られたエビデンスであり、エビデンスの全体的な確実性は非常に低いものだった。確実性の低いエビデンスでは、妊娠率が上昇する可能性を示唆している。全体として、流産のリスクを高めるというエビデンスはない。確実性の低いエビデンスでは、抗酸化物質が胃腸の不快感をより多く起こす可能性が示唆されている。研究方法の報告が不十分であること、出生率およ妊娠率の報告が不足していること、イベント発生率が低いことによる不正確さ、脱落者が多いこと、研究グループのサイズが小さいことなどから、不妊症のカップルに対して、全体として現在のエビデンスは決定的ではないことを助言されたい。抗酸化物質の正確な役割を明らかにするためには、さらに大規模でよくデザインされたランダム化プラセボ対照試験に基づいた妊娠率や出生率の報告が必要である。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2022.05.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007411.pub5》

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