胞状奇胎に対する、後に癌になることを防ぐための予防的化学療法

背景
胞状奇胎は、妊娠の過程で異常が起こり、胎盤組織が子宮内で過剰に増殖することで発症する。胞状奇胎は、その外観(肉眼的および顕微鏡的)と染色体のパターンに基づいて、全胞状奇胎と部分胞状奇胎に分類される。胞状奇胎があると、通常は妊娠初期の検査で疑われ、女性にはしばしば流産に似た出血の症状が出る。奇胎の組織は子宮内容除去術によって取り除かれ、ほとんどの女性は完全に治癒する。しかし、時には子宮内で癌を発症することがある(全胞状奇胎では5人に1人、部分胞状奇胎では200人に1人)。妊娠性絨毛性腫瘍と呼ばれるこの癌は、一般的に、40歳以上の女性、子宮が非常に大きくなった場合、卵巣に大きな嚢胞があった場合、初期の血液中β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG、妊娠時に上昇するホルモン)の値が高かったりする場合に発症するリスクが高い。ほとんどの場合、化学療法(抗がん剤)による治療が有効だが、奇胎組織を取り除く処置の前後に抗がん剤をルーチンで投与することで癌組織が発生するリスクを減らせる可能性が示唆されている。

レビューの目的
このレビューでは、子宮内容除去術の術前または術後に、奇胎妊娠の女性に抗がん剤を投与することの利点とリスクを評価しようとした。

主な結果
613人の女性を対象とした3件のランダム化比較試験(RCT、対象者が無作為に、つまり偶然だけで割り当てられる試験)が特定された。2件の研究では、全胞状奇胎の女性だけを対象にメトトレキサートを試験し、1件の研究では、妊娠性絨毛性腫瘍になるリスクが高い全胞状奇胎の女性を対象にダクチノマイシンを試験していた。メトトレキサートを使った2件の研究は古い研究で、比較的貧弱な研究方法を用いているため、その結果は信頼できない。レビューの結果は全体的に、予防的化学療法は奇胎妊娠後に癌になる女性の数を減らすことを示唆しているが、これはおそらく高リスクの奇胎(すなわち全胞状奇胎)の女性にのみ当てはまるだろう。また、予防的化学療法は、癌の診断にかかる時間を長くしたり、癌が発症した場合に治癒するために必要な抗癌剤治療の回数を増やす可能性がある。今回のレビューでは、十分なデータがなかったため、予防的化学療法の短期・長期の副作用を評価することはできなかった。しかし、これらの研究で研究者が使用した予防的化学療法の5日間および8日間のコースは、女性にルーチンで投与するには毒性が強すぎるのではないかと懸念される。

エビデンスの質
このエビデンスの質は低度~非常に低度と考えた。それは、対象となった研究のうち2件の研究が方法論的な質が低いため、バイアスのリスクが高いと判断したことに基づいている。また、3件目の研究は質が高かったものの、参加者がわずか60人であった。

結論
現在のところ、奇胎妊娠の女性に抗がん剤を投与することを支持する十分なエビデンスはない。抗しかし、妊娠性絨毛性腫瘍は現代の治療でほぼ完治でき、奇胎妊娠に対する予防的化学療法は本格的な化学療法が必要になるリスクを減らすだけで、そのリスクを取り除くことはできない。また、胞状奇胎のある女性を注意深く経過観察する必要性は変わらないだろう。

訳注: 

《実施組織》 杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2021.10.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007289.pub3》

Tools
Information