早期乳癌に対する乳房部分照射

何が問題か?

 早期乳癌の女性が乳房を残すことを希望する場合、癌を乳房内で再増殖させないために、手術と放射線治療(RT)を受ける必要がある。RTは高エネルギーX線を用いて行う治療である。多くの場合、乳癌に対してRTを施行するには放射線科に週5回、計25~30回の通院が必要となる。

 乳癌が同じ乳房で再増殖した場合(局所再発という)、切除したのと同じ場所で再発する傾向がある。また、同じ乳房の別の場所で新たな癌(新たな 「elsewhere primary」)が生じることもある。最初の癌が発生した部位における、癌の再増殖を抑制する目的で行うRTが「elsewhere primary」の発生を抑制するのか、ということは、まだわかっていない。

 乳癌は女性がかかるがんの中で最も頻度の高いものである。女性が乳房を残すことを希望したとき、治療後の見た目(整容性)に満足することは大切である。

なぜ問題なのか?

 われわれは、副作用をできるだけ少なくするためにRTを行う部分を最小限にすることを常に望んでいる。乳房の一部分にのみ照射すると、必要な場合は同じ乳房の別の部分にRTを再び行うこともできる。 新しいRTの方法では、これまでより少ない照射回数で乳房の必要な部分を治療することができる。それによって女性に負担がかからず治療費も抑えられることになる。

 われわれの論点は、RTを乳房の一部に行うこと(いわゆる部分乳房照射(PBI) )が乳房全体に行うのと同じ効果になるのか、ということである。同じ効果を立証するためには、乳房全体にRTを行うのと同程度に癌を抑制することが必要となる。また、PBIの副作用と乳房の見た目が乳房全体への照射と同程度となることが重要となる。

 レビューの対象としたのは、7件の研究、参加者7586例であった。われわれのエビデンス(科学的根拠)は2015年5月時点のものである。局所再発はまれであったもののPBIの方が発生率は高く(質の低いエビデンス)、また乳房の見た目(医師による評価)はPBIの方が悪かった(質の低いエビデンス)。生存期間にはなかった(質の高いエビデンス)。乳房の瘢痕は PBI の方が悪かった(中等度の質のエビデンス)。どちらの照射法でも死亡数は同じであった(中等度の質のエビデンス)。どちらの照射法でも乳癌が全身に転移した女性の数は同じであった(中等度の質のエビデンス)。どちらの照射法でも最終的に乳房を取る(乳房切除術)必要が生じた女性の数は同じという結果であった。乳房切除術は、乳房内の癌の再増殖やひどい副作用が発生したために行われたものと思われる(質の低いエビデンス)。

 つまり現時点では、PBIは乳房全体への照射と同等の癌抑制効果は得られていない。だが、そのは小さいものである。PBIは、よりひどい副作用を起こすおそれがある。現在、この疑問に対する答えを得るのに重要な5件の大きな研究が進行中である。次回の更新では明確な答えが得られることを期待する。

著者の結論: 

 局所再発および「elsewhere primaries」(同側乳房に発生した new primary)は、PBI/APBIの方が高かった(ただしは小さい)。だが、他の腫瘍学的転帰に関する悪化を示すエビデンスはみられなかった。整容性に関する転帰および一部の晩期有害事象はPBI/APBIの方が悪かったが、PBI/APBIを行うことで急性皮膚炎は低下したという結果であった。現在得られるデータに限界があるため、有効性および安全性、PBI/APBIの照射方法に関する最終的な結論は得られない。現在行われている研究の完了に期待する。

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背景: 

 乳癌患者に対する乳房温存療法は、(十分な切除マージンを取った)部分切除と術後の放射線療法(RT)からなる。RTは、手術後に残存する可能性のある癌細胞を死滅させ、局所再発のリスクを減らすことを目的とする。true recurrence(遺残癌による再発)の多くは原発巣と同じ区域で発生している。全乳房照射(WBRT)では同側乳房の他の区域で発生した new primary (残った乳腺組織から新たに発生した癌)を予防できない可能性がある。本コクラン・レビューでは、乳房の腫瘍床周辺の限局的な領域に対する放射線照射法(乳房部分照射(PBI))―期間を短縮した照射法(加速乳房部分照射(APBI))を含む−−に関する調査を行った。

目的: 

 早期乳癌に対する乳房温存術後、PBI/APBIが従来のWBRTもしくは寡分割WBRTと同等あるいは優位性があるかどうか検証すること。

検索方法: 

 Cochrane Breast Cancer Group Specialized Register(CBCGSR)(2015年5月4日時点)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(2015年第5号)、MEDLINE(1966年1月から2015年5月4日まで)、EMBASE(1980年から2015年5月4日まで)、CINAHL(2015年5月4日時点)およびCurrent Contents(2015年5月4日時点)を検索した。また、International Standard Randomised Controlled Trial Number (ISRCTN) Register(2015年5月5日時点)、World Health Organization's International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)(2015年5月4日時点)、およびClinicalTrials.gov(2015年6月17日時点)を検索した。OpenGrey(2015年6月17日時点)で灰色文献を検索し、記事の参考文献リスト、いくつかの議事録および公表された抄録を調べた。言語制限は設けていない。

選択基準: 

 交絡因子のない、乳房温存手術とPBI/APBI、v.s. 乳房温存手術とWBRTを評価したランダム化比較試験(RCTs)。適格性は試験の公表の有無によらなかった。

データ収集と分析: 

 レビュー著者2名(BHとML)がデータ抽出を行い、コクランの バイアスのリスク評価ツールを使用し、議論によりあらゆる意見の相違を解決した。Review Manager 5 (RevMan5) にデータ入力し解析を行った。

主な結果: 

 RCT 7件、および登録された8955例のうち7586例の患者を対象に調査を行った。

 局所無再発生存期間は、WBRTと比較してPBI/APBIを受けた患者で不良という結果であった(ハザード比(HR)1.62、95%信頼区間(CI)1.11~2.35、6試験、6820例、質が低いエビデンス)。 整容性(医師による報告)はPBI/APBI の方が悪いという結果であった(オッズ比(OR)1.51、95%CI 1.17~1.95、5試験、1720例、質が低いエビデンス)。全生存期間はPBI/APBIとWBRTではなかった(HR 0.90、95%CI 0.74~1.09、5試験、6718例、質が高いエビデンス)。

 放射線の晩期有害事象(皮下線維症)の発生率はPBI/APBIの方が悪いという結果であった(OR 6.58、95%CI 3.08~14.06、1試験、766例、中等度の質のエビデンス)。急性皮膚炎の発生率はPBI/APBIで低かったという結果であった(OR 0.04、95%CI 0.02~0.09、2試験、608例)。 毛細血管拡張症の発生率はPBI/APBIの方が高いという結果であり(OR 26.56、95%CI 3.59~196.51、1試験、766例)、また放射性脂肪壊死の発生率もPBI/APBIの方が高いという結果であった(OR 1.58、95%CI 1.02~2.43、3試験、1319例)。晩期皮膚有害事象の発生率はPBI/APBIとWBRTでがなく(OR 0.21、95%CI 0.01~4.39、2試験、608例)、乳房痛もPBI/APBIとWBRTでがなかった(OR 2.17、95%CI 0.56~8.44、1試験、766例)。

 「Elsewhere primaries」(同側乳房に発生したnew primary)は、PBI/APBI の方が発生率は高かった(OR 3.97、95%CI 1.51~10.41、3試験、3009例)。

 以下の結果については、PBI/APBIとWBRTとの比較でを示す明確なエビデンスを得られなかった。疾患特異的生存期間(HR 1.08、95%CI 0.73~1.58、5試験、6718例、中等度のエビデンス)、無遠隔転移生存期間(HR 0.94、95%CI 0.65~1.37、4試験、3267例、中等度のエビデンス)、無再発生存期間(HR 1.36、95%CI 0.88~2.09、3試験、3811例)、局所領域無再発生存期間(HR 1.80、95%CI 1.00~3.25、2試験、3553例)、乳房切除施行率(OR 1.20、95%CI 0.77~1.87、3試験、4817例、質の低いエビデンス)。治療コンプライアンスは良好で、全研究の患者の9割超は割り付けられたRTによる治療を受けた。コスト、QOL(生活の質)や患者の希望に関する結果のデータは得られなかった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 渋谷武道 翻訳、河村光栄(京都大学大学院医学研究科)監訳 [2016.10.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007077》

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