早期乳がんに対する乳房部分照射

論点

乳がんは、女性が罹患するがんの中で最も頻度の高いものである。

早期乳がんの女性が乳房を残すことを希望する場合、乳房内で確実にがんを再増殖させないために、手術と放射線治療を受ける必要がある。放射線治療は高エネルギーX線を用いて行う治療である。通常、乳がんの放射線治療では、週5回、計15~30回、放射線科に通院する。

乳がんが同じ乳房で再増殖した場合(局所再発という)は、切除したがんがあった同じ場所に再発する傾向がある。また、同じ乳房の異なる部位に新たながん(新たな 「別の場所の原発がん」)が生じることもある。最初のがんが発生した部位での再増殖を抑制する目的で行う放射線治療が、「別の場所の原発がん」の発生を抑制するのかどうかは、まだわかっていない。

重要である理由

副作用を少なくするために、放射線を照射する部分を最小限にすることが望ましい。乳房の一部への照射ですめば、必要に応じて同じ乳房の別の部分に再び放射線治療を行える可能性もある。放射線治療の新しい方法では、乳房の一部をこれまでより少ない照射回数で治療できる。それによって患者への負担が減り、治療費も抑えられる可能性が高い。

比較したこと

放射線治療を乳房の一部に行った場合(いわゆる乳房部分照射)、乳房全体に照射する放射線治療と同じ効果が得られるかどうかを調べた。乳房部分照射は治療期間を短縮して行うこともできる(回数の少ない乳房部分照射)。

乳房部分照射が治療として認められるには、乳房全体に放射線治療を行った場合と同程度に、この治療法によってがんが抑制されることが必要である。また乳房部分照射による副作用と乳房の見た目が、乳房全体への照射と同程度であることも重要となる。

わかったこと

計15,187人が対象となった9件の該当する研究が見つかった。本エビデンスは、2020年8月27日現在のものである。局所再発はおそらく乳房部分照射(少ない回数)/乳房部分照射のほうがわずかに多く(質が中等度のエビデンス)、また乳房の見た目(医師と看護師による評価)は乳房部分照射(少ない回数)/乳房部分照射のほうがやや悪かった(質が中等度のエビデンス)。生存期間にはほとんど差がなかったようである(質の高いエビデンス)。放射線治療による晩期(3カ月以降)の副作用である皮下組織の線維化(乳房の見た目や感触の変化)は、乳房部分照射(少ない回数)/乳房部分照射によりおそらくやや増加する。乳房部分照射(少ない回数)/乳房部分照射で乳がん関連死亡および遠隔転移にはほとんど差がない。また乳房部分照射(少ない回数)/乳房部分照射で、容認できない晩期副作用または局所再発のために最終的に乳房切除術(乳房全体の切除)が必要となる女性の数にもほとんど差がなかった。

結果が意味すること

現時点では、乳房部分照射は乳房全体への照射と同等のがん抑制効果は得られていないが、その差は小さい。乳房部分照射によってやや大きな副作用が生じる可能性がある。現在進行中の7件の大規模研究が、この疑問に対する答えを得るのに重要となるだろう。本レビューの次回更新で、より明確な答えが得られることを期待する。

訳注: 

一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)片瀬ケイ 翻訳、河村光栄(京都大学大学院医学研究科)監訳 [2021.10.05] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007077.pub4》

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