乳児仙痛に対する手技療法

乳児仙痛は、乳児の過剰な号泣が特徴である悩ましい問題で、生後16週間の間に医師により診断される最も一般的な症状である。

一般的に症状は生後5、6カ月までに消えるので、通常は害のない病気と考えられている。しかし親や家族の生活に及ぼす苦痛が大きいので、しばしば医師は介入の必要性を感じる。乳児に長期的影響があることを示す研究が数件あり、2001年には英国国民保健サービスに6500万ポンド超の費用を見積もっている。

ある種の軽度な(ゆっくり、少しだけ)手技テクニック(オステオパシーやカイロプラクティック療法で使われるような)により安全に乳児仙痛の症状(特に過剰な号泣時間)を和らげる可能性があることが、示唆されてきた。このレビューでは、手技療法またはコントロールに割り付けられた乳児325例のランダム化試験を6件選択した。

研究は参加者数があまりにも少なく、質が不十分なので、手技療法の有用性および安全性に関する明確な結論を導き出すことができなかった。

6件の内5件の研究で手技療法の治療により号泣が減少したことを示唆しているが、親が自分の子が治療を受けたかどうかを知らない研究のみを選択した場合、手技療法が乳児仙痛を改善するというエビデンスは認められなかった。

有害作用はなかったが、6件の試験の内1件で評価されただけであった。

(a)乳児を治療または無治療にランダム化し、 (b)治療アウトカムを評価する者が、乳児が手技療法を受けたかどうかわからないようにするさらに厳格な研究が必要である。

著者の結論: 

本メタアナリシスに選択した研究は、一般的に小規模で方法論的にバイアスがあったので、乳児仙痛に対する手技療法の有効性についての決定的な結論に達するのは不可能である。

選択した試験の大半で、手技療法を受けた乳児の親がそうでない親より、日常の号泣時間の減少を同時期の号泣日誌に基づいて報告したことが示されており、この差は統計学的に有意であった。また、試験ではこれらの親の多くが臨床的に意味のある改善も報告したことを示している。しかし、評価者(親)に対して、誰が介入を受けたか盲検化していないため、大部分の研究は実行バイアスのリスクが高かった。このような実行バイアスのリスクが低い研究だけを統合した場合、結果は統計学的な有意性に届かなかった。今後の研究では、治療アウトカムを評価した親が、自分の子が手技療法を受けたかどうかわからないようにすることが必要である。

これらの介入の安全性に関して決定的な結論に達するためのデータは不十分である。

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背景: 

乳児仙痛は、およそ6家族に1件起こる一般的な疾患であり、英国国民保健サービスでは2001年に年間6500万ポンドを超える支出を記録した(Morris 2001)。通常生後6カ月頃には自然に収まるが、小児および親の長期後遺症のエビデンスが数例ある。

カイロプラクティックやオステオパシーなどの手技療法が症状の重度を軽減する介入として示唆されてきた。

目的: 

生後6カ月未満の乳児の乳児仙痛に対する手技療法(特にカイロプラクティック、オステオパシー、頭部マニピュレーション)の有効性を示すようデザインした研究の結果を評価すること。

検索戦略: 

以下のデータベースを検索した:CENTRAL(2012年第4号)、 MEDLINE(1948〜2012年4月第3週)、 EMBASE(1980〜2012年第17週)、CINAHL(1938年〜2012年4月)、 PsycINFO(1806年〜2012年4月)、 Science Citation Index(1970〜2012年4月)、 Social Science Citation Index(1970年〜2012年4月)、 Conference Proceedings Citation Index – Science(1990年〜2012年4月)およびConference Proceedings Citation Index - Social Science & Humanities (1970年〜2012年4月)。また、LILACS、PEDro、 ZETOC、 WorldCat、 TROVE、 DART-Europe、 ClinicalTrials.gov、 ICTRP(2012年5月)の閲覧可能なすべての年を検索し、全世界の90超のカイロプラクティックおよびオステオパシーの施設にコンタクトをとった。さらに2010年12月にCentreWatch、 NRR Archive、 UKCRNも検索した。

選択基準: 

乳児仙痛に対するカイロプラクティック、オステオパシー、頭部オステオパシー単独または他の介入との併用の効果を評価するランダム化試験を選択した。

データ収集と分析: 

5名のレビューアがペアで、(a) 選択基準に対する研究の適合性を評価し (b)選択した研究からデータを抽出し (c)選択したすべての研究のバイアスのリスクを評価した。各論文、研究は2名のレビュー著者が独立して評価した。1名のレビュー著者がデータをReview Manager softwareに入力し、チームの統計学者(PP)が選択解析設定を評価した。

主な結果: 

計325例の乳児を対象とした6件の研究を本レビューで同定した。情報がわからない研究がさらに3件あり、その他3件の進行中の研究もあった。6件の選択した研究の内、5件で有益な効果を示唆しており、1件では乳児仙痛の自然経過に手技療法が何の有益な効果もないというエビデンスを認めた。異質性のテストでは、この研究とその他の5件との間に何らかの差異がある可能性があることが示されている。

5研究で毎日の乳児の泣いた時間を測定し、そのデータを統合した。乳児仙痛に対して手技療法が有意に効果があること-1日につき平均号泣時間が1時間12分減少した-が示唆された(平均差 (MD)-1.20; 95%信頼区間(CI)-1.89〜-0.51)。この結果は、選択バイアスのリスクが低い研究だけ(シーケンス生成および割り付けの隠蔵化)(MD -1.24; 95%CI -2.16〜-0.33)、症例減少バイアスの低い研究(MD -1.95; 95%CI -2.96〜-0.94)、ピアレビューされた文献に発表された研究だけ(MD -1.01; 95%CI -1.78〜-0.24)を考慮した場合も維持された。しかし実行バイアスのリスクが低い研究(親を「盲検化」)だけを統合した場合、日常の号泣時間の改善は統計学的に有意ではなかった(MD -0.57; 95%CI -2.24〜1.09)。

1件の研究では、号泣時間の減少が臨床的に意味があるかを考慮した。これにより、手技療法を受けた乳児の親では、無治療の乳児の親より多い割合で臨床的に意味のある改善がみられることがわかった(2時間未満の号泣の減少:オッズ比 (OR)6.33; 95%CI 1.54〜26.00; 30%超の号泣の減少:OR 3.70; 95%CI 1.15〜11.86)。

親から乳児仙痛の「完全な回復」の報告を受けた3件の研究のデータ解析では、手技療法では回復を報告した親の割合が有意に高いという結果は出なかったことがわかった(OR 11.12; 95%CI 0.46〜267.52)。

1件の研究で、乳児の睡眠時間を測定したところ、手技療法で統計学的に有意な改善の結果を示した(MD 1.17; 95%CI 0.22〜2.12)。

研究の質は、さまざまであった。選択バイアスのリスクは一般的に低かったが、6件の内2件だけ実行バイアスが低いと評価し、3件が検出バイアスのリスクが低く、1件が症例減少バイアスのリスクが低いと評価した。

有害事象を報告した研究が1件あったが、1例も見当たらなかった。しかし乳児325例のサンプルだけでは、安全性に対する決定的な結論に至るにはあまりにもデータが少なすぎる。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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