食道癌に対する中薬(中医学の薬草療法)

レビューの論点

中薬は、食道癌の治療を受けた患者に対し、化学療法または放射線療法の補助療法として広く用いられている。しかし、中薬が食道癌の補助療法として有効かどうかに関するエビデンスは得られていない。

背景

食道癌に対する放射線療法または化学療法に中薬を併用した場合と併用しない場合を比較することで中薬の有益性を検討したシステマティックレビューを実施した。Cochrane Upper Gastrointestinal and Pancreatic Diseases Group Trials Register、Cochrane Library、MEDLINE、EMBASE、Allied and Complementary Medicine Database (AMED)、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、VIP database、Wanfang databaseおよChinese Cochrane Centre Controlled Trials Registerを2015年10月1日まで検索した。継続中の試験のデータベース、インターネットおよび参考文献一覧も検索した。

試験の特性

9件のランダム化比較試験(RCT)を同定した。試験はすべて中国で実施された。

主な結果

この更新版レビューでは、490名の参加者を対象とした9件の試験を対象とした。食道癌に対する化学療法または放射線療法の補助療法に中薬を使用した結果、生活の質に有益な効果が認められ、放射線療法または化学療法に起因する有害作用(放射線性食道炎、胃腸反応、血球減少など)に対する患者の忍容性が高まったが、総死亡率、生存期間中央値および病勢進行までの期間に効果は認められなかった。

エビデンスの質

バイアスのリスクが認められたため、エビデンスの質を低から中と評価した。これらの研究は組み入れた人数が少なかったため、精度が低下し、結果に矛盾が認められた。対象とした9件の試験では、中薬の用途が試験によって異なっていたため、中薬の種類ごとにサブグループ解析を実施することができなかった。この点も結果の不正確さを招いた一因であるかもしれない。今後、質の高い試験が必要である。

著者の結論: 

現時点では、中薬が食道癌の有効な治療かどうかを決定するエビデンスは得られていない。短期治療効果に対する中薬の効果は不明である。中薬は、放射線療法または化学療法を受けた進行食道癌患者の生活の質および放射線療法または化学療法に起因する一部の有害事象に改善効果をもたらす可能性が高い。エビデンスの質が全体的に低いため、本レビューの結果は慎重に解釈する必要がある。重要な臨床効果を検出し、バイアスのリスクを最小限にするため、今後は大規模で適切なデザインの試験を実施すべきである。

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背景: 

癌による死亡のうち世界で7番目に多いのは食道癌である。食道癌では、放射線療法や化学療法の補助療法として、伝統的な中薬(中医学の薬草療法)が使用されることがある。本レビューの初版は2007年に出版され、2009年に更新された。この2016年版が最新版である。

目的: 

食道癌の放射線療法または化学療法に中薬を追加した場合の有効性および有害作用を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Upper Gastrointestinal and Pancreatic Diseases Group Trials Register、Cochrane Library、MEDLINE、EMBASE、Allied and Complementary Medicine Database (AMED)、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、VIP database、Wanfang databaseおよChinese Cochrane Centre Controlled Trials Registerを2015年10月1日まで検索した。継続中の試験のデータベース、インターネットおよび参考文献一覧も検索した。

選択基準: 

放射線療法または化学療法に中薬を追加した場合と追加しない場合を比較したランダム化比較試験(RCT)。

データ収集と分析: 

2名以上のレビュー著者がそれぞれデータ抽出を行い、試験の質を評価した。

主な結果: 

142名の試験著者に電話で問合せを試み、490名の参加者を対象とした9件の試験を最終的に組み入れた。対象試験はいずれも中国で実施されたもので、進行食道癌患者を放射線療法群または化学療法群に割り付け、中薬を追加した場合と追加しない場合を検討した。これらの試験では、生活の質、短期治療効果、中薬に起因する症状および放射線療法または化学療法に起因する有害事象が報告されていた。総じて、これらの試験のバイアスのリスクは不明または高かった。

介入の前と後に生活の質を評価した。本解析では、改善が認められた患者数(リスク比(RR)2.20, 95% 信頼区間(CI)1.42〜3.39; 5件のRCT、参加者233名、パフォーマンス・ステータス・スコアの変化10以上)および悪化が認められた患者数(RR 0.41, 95% CI 0.27〜0.62; 6件のRCT、参加者287名、パフォーマンス・ステータス・スコアの変化10以下)の両方に有益な効果が認められた。この研究のエビデンスの質は低いと判定し、バイアスのリスクおよび精度 の低さに関してエビデンスの質の評価を引き下げ、効果量が大きい点に関してはエビデンスの質の評価を引き上げた。

短期治療効果に関する結果は、中薬が改善効果(完全奏効+部分奏効)を有することを示唆している(RR 1.17, 95% CI 1.02〜1.35; 8件のRCT、参加者450名)。このエビデンスの質は中等度で、バイアスのリスクに関して評価を引き下げた。病勢進行に対する効果に有意差は認められなかった(RR 0.73, 95% CI 0.52〜1.01; 8件のRCT、参加者450名)。このエビデンスの質は低く、バイアスのリスクおよび精度の低さに関して評価を引き下げた。3件の研究では、4週間または3カ月間の追跡期間の後にアウトカムを評価した。残りの研究は、アウトカムに関する詳細情報が記載されていなかった。88名を対象とした2件の研究では、介入終了時に中薬に起因する症状を診断したが、これらは中薬の臨床基準で評価した短期治療効果と類似していた。研究結果は、中薬が総合的な有効性(RR 1.84, 95% CI 1.20〜2.81)および無効性(RR 0.22, 95% CI 0.05〜0.93)の両方に正の影響をもたらすことを示唆している。この研究のエビデンスの質はきわめて低いと判断し、バイアスのリスクおよび精度の低さに関して評価を引き下げた。

9件の研究で、介入終了時に、粘膜炎、放射線性食道炎、骨髄成熟障害、胃腸反応、腎障害、肝障害、白血球減少、神経毒性、心臓毒性、貧血など、放射線療法または化学療法に起因する一連の有害事象が報告された。複数の研究を含む場合は統合解析を行った。その結果、中薬では放射線性食道炎(RR 0.66, 95% CI 0.47〜0.94; 2件のRCT、参加者90名)、胃腸反応(RR 0.54, 95% CI 0.36〜0.81; 4件のRCT、参加者268名)および白血球減少(RR 0.60, 95% CI 0.44 〜0.83; 4件のRCT、参加者224名)に対して有意な効果が認められた。エビデンスの質は低いまたはきわめて低いと判定され、バイアスのリスクおよび精度の低さに関して評価を引き下げた。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.3]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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