多発性脳転移の治療に対する全脳放射線治療

この日本語訳は最新版ではない。英語の最新版をご覧になるにはここをクリックしてください。

放射線治療は、脳に転移した癌患者の治療に多く用いられる。本レビューの目的は、多発性脳転移の成人患者を対象に全脳放射線治療(WBRT)単独または他の治療との併用の有効性および有害作用を評価することであった。総計10,835名の参加者になる39件の試験が2012年の更新で選択された。標準照射量に比べ、修正WBRT照射スケジュールによる追加の利益はなさそうであった。WBRTと放射線増感剤または化学療法との併用で、追加的利益が得られるエビデンスはまだなかった。WBRTと追加的手術照射により、多発性脳転移の当該患者での生存は改善しなかったが、WBRTに手術照射を追加することにより局所コントロールは改善した。手術照射にWBRTを追加することにより、局所および遠隔脳コントロールも改善したが、WBRTと手術照射併用に比べ手術照射単独患者の方が神経認知アウトカムは良好であった。

著者の結論: 

修正WBRT線量分割法スキームによっては、標準法(1日10分画の3000 cGyまたは1日4~5分画の2000 cGy)と比較して、総生存、神経学的機能および症状の改善の点で利益を認めたRCTはなかった。

アブストラクト全文を読む
背景: 

脳転移は重大な健康上の問題の一つである。癌患者の20~40%において、脳転移がその経過中に起こると推定される。脳転移という重荷は、生存の質と生存期間に影響する。その呈する症状には、頭痛(49%)、局所の脱力(30%)、精神障害(32%)、失調性歩行(21%)、痙攣(18%)、言語障害(12%)、視覚障害(6%)、感覚障害(6%)および四肢失調(6%)などがある。 脳転移はあらゆる原発部位から生じる可能性がある。最も多い原発部位は肺で、次に乳房、胃腸管と続く。脳転移の85%は大脳半球で認められ、10~15%で小脳、1~3%で脳幹に認められる。脳放射線治療は、様々な原発性悪性腫瘍に由来する脳転移の癌患者治療に使用される。 本レビューは、2006年第3号発表のコクラン・レビューの更新である。

目的: 

多発性脳転移の成人患者を対象に全脳放射線治療(WBRT)の有効性および有害作用を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (2011年第3号)、2011年7月までのMEDLINEおよびEMBASEを検索した。

選択基準: 

原発部位を問わず多発性脳転移が新たに診断された成人を対象に、WBRT単独または他の治療との併用について比較を行なったランダム化比較試験(RCT)。予防的WBRTの試験、ならびに単発性脳転移を対象として、手術またはWBRTあるいはその両方を扱った試験は除外した。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々に試験の質を評価し情報を抽出した。有害作用の情報も試験から収集した。

主な結果: 

1,420名の参加者に及ぶ9件のRCTを本更新に追加した。本更新レビューには10,835名の参加者となる計39件の試験が現在含まれることになった。 8件の出版済みの報告(9件のRCT)では、総生存について、WBRTコントロール分割(3000 cGyを10分割、1日1回照射)に比べて、線量を変更した分割法スケジュールの利益はないとわかった。また、これらの研究から、3000 cGyを10分割、1日1回照射のWBRTに比べて、線量を変更した分割法スキームで症状改善および神経学的改善もないとわかった。本更新レビューには、2000 cGyを4~5分割、1日1回照射に対し、4000 cGyを20分割、1日2回照射を比較した2件の試験を組み入れた。全体として、2000 cGy を4~5分割、1日1回照射に比べ、4000 cGy を20分割、1日2回照射において、生存の優位性はなかった[ハザード比(HR)1.18、95%信頼区間(CI)0.89~1.56、P=0.25]。 放射線増感剤の追加を行なった6件のRCTでは、総生存期間(HR 1.08、95%CI 0.98~1.18、P=0.11)および脳腫瘍奏効率(HR 0.87、95%CI 0.60~1.26、P=0.46)のいずれにおいてもWBRTによって利益が勝ることはなかった。 2件のRCTでは、選択された多発性脳転移の患者(脳転移が4つまで)を対象に、WBRT単独に比べWBRTに手術照射を追加しても総生存に利益がなかった(HR 0.61、95%CI 0.27~1.39、P=0.24)。全体として、WBRTに手術照射を追加した群を支持することで、脳局所コントロールの統計学的に有意な改善が認められた(HR 0.35、95%CI 0.20~0.61、P=0.0003)。手術照射の追加とWBRT併用の1件の試験のみで、カルノフスキー・スコア(Karnofsky performance score)上のアウトカム改善とデキサメタゾンを減らしうるとの報告がなされた。 本更新レビューでは、計3件のRCTにおいて、WBRTと手術照射併用に対する手術照射単独の選択された患者(脳転移が3~4つまで)に関する報告があった。2件の試験によれば、総生存に差はなかった(HR 0.98、95%CI 0.71~1.35、P=0.88)。手術照射にWBRTを追加した場合、脳転移の局所コントロール(HR 2.61、95%CI 1.68~4.06、P<0.0001)および脳遠隔コントロール(HR 2.15、95%CI 1.55~2.99、P<0.00001)が有意に改善した。一方、1件の試験は、手術照射単独治療患者に比べ、WBRTに手術照射を追加した患者は学習機能および記憶機能の低下を示す可能性が有意に高いと結論した。 1件のRCTはWBRTとプレドニゾンの併用をプレドニゾン単独と比較して検討していたがはっきりと結論は出なかった。

訳注: 

Translated by: MINDS

Translation supported by: