白内障手術での使用における多焦点眼内レンズ移植と単焦点眼内レンズ移植との比較

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加齢とともに、眼の水晶体は時に混濁状態となり視覚喪失につながる。混濁した水晶体又は白内障は除去可能で、除去した場所に交換レンズを入れる。以前、交換レンズは遠方又は近方のいずれかの「単焦点」であった(単焦点レンズ)。このため、たとえば読書時など他の点に焦点を合わせるため、複数の眼鏡が必要であった。2つ以上の焦点を有する新規レンズ(「多焦点レンズ」)が開発された。このレンズは、眼鏡の必要性を回避するよう設計されている。参加者1,600名を多焦点又は単焦点レンズに無作為割り付けした16件の試験が認められた。多焦点レンズ使用者は眼鏡を必要とする傾向が低かった。この場合、単焦点レンズを有する人と同様の遠見視力を有するが、近見視力はより良好であった。多焦点レンズには欠点がある。すなわちこのレンズの使用者は、光周囲にハロー現象が生じる傾向があり、コントラスト感度が低下した(物体を、物体自体と類似する背景と区別する能力)。多焦点レンズ移植により、白内障手術後の眼鏡依存が減るが、透明度が減少する。最終的に、どの種類のレンズが好ましいか決定するのは個人次第である。

著者の結論: 

多焦点IOLは単焦点IOLに比し、近見視力改善に有効である。改善が多焦点IOLの有害作用を上まわるか否かは患者によって異なる。眼鏡からの自立達成への動機づけが、決定因子と思われる。

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背景: 

現在、白内障手術及び眼内レンズ(IOL)移植後には良好な肉眼での遠見視力が現実的に期待できる。しかし近見視力は依然として、通常は拡大鏡という形態でさらなる屈折力を必要とする。様々な距離で良好な視力が得られる、複数の焦点を有する(多焦点)IOLが入手可能である。この利益が多焦点IOL固有の視覚的な妥協を上まわるか否かは不明である。

目的: 

本レビューの目的は、白内障手術を受ける患者の視力、主観的な視覚的満足、眼鏡への依存性、グレアとコントラスト感度に対する効果など、多焦点IOLの効果を標準の単焦点レンズと比較し評価することであった。

検索戦略: 

CENTRAL(Cochrane Eyes and Vision Group Trials Registerを含む)(コクラン・ライブラリ2012年第2号)、MEDLINE(1946年1月~2012年3月)、EMBASE(1980年1月~2012年3月)、metaRegister of Controlled Trials(mRCT) (www.controlled-trials.com)、ClinicalTrials.gov (www.clinicaltrials.gov)及びWHO International Clinical Trials Registry Platform(ICTRP)(www.who.int/ictrp/search/en)を検索した。試験の電子検索に年月日又は言語の制限を設けなかった。電子データベースは2012年3月6日が最終検索日であった。関連論文の参考文献リストを検索し、追加された発表済み及び未発表の試験に関する情報について組み入れた試験の治験医師及び多焦点IOLの製造者と連絡をとった。

選択基準: 

いずれかの種類の多焦点IOLを対照である単焦点IOLと比較する全ランダム化比較試験を組み入れた。片側及び両側移植試験とも組み入れた。

データ収集と分析: 

レビューア2名がデータを収集し、試験の質を評価した。可能な場合、ランダム効果モデルを用いて個々の試験からデータを統合し、そうでない場合はデータを集計した。

主な結果: 

16件の完了済み試験(参加者1,608名)及び2件の継続中の試験が同定された。全ての対象となる試験で、多焦点及び単焦点レンズを比較していたが、移植したレンズの製造及びモデルには大幅な変動があった。全体として、患者及びアウトカム評価者にマスキングするのは困難であったため、試験には成績及び検出バイアスのリスクがあるとみなされた。又、報告バイアスの役割を評価するのも困難であった。両種のレンズで同様の遠見視力が達成されるという中等度の質のエビデンスがあった(6/6以上に悪化した裸眼での視力の統合リスク比(RR)0.98、95%信頼区間(CI)0.91~1.05)。多焦点レンズ使用者は、近見視力がより良好であるというエビデンスが存在したが、方法論的及び統計的な異質性により、近見視力に対する効果の統合推定値を算定しなかった。単焦点IOLより多焦点IOLの場合の方が、高頻度に「まったく眼鏡使用なし」が達成された。多焦点IOL使用者では、特にハロー又は光の輪のような有害な主観的視覚現象がより一般的で煩しく、多焦点レンズでのコントラスト感度の低下のエビデンスが認められた。